――無限に広がる大宇宙。 その片隅に浮かぶ蒼き星、地球。 月面でのインベーダー戦争から既に十五年。地上は平和を取り戻していた。 復興し、ビルと車と人に溢れた都会。 雀が鳴き、穏やかな太陽が照らす田舎。 街を歩む若者。茶を飲む翁。幸せそうな恋人たち。 平和の象徴である、笑顔。 ――だが、人類の歴史上に永遠の平和が無かったが如く、宇宙においても穏やかな静寂が続くことはあり得ない。 宇宙の深淵に潜むソレ。正義や邪悪といった観念が意味をなさぬ“奴ら”。 覚醒し、認識し、成長し。 眼前の蒼い惑星へと、侵略を速やかに開始した。 「――FBI特別捜査官のウィリアム・フォックス・モルダーです。 「MMRのキバヤシです。まあ、とりあえずかけてください」 MMRのオフィスに現れたのは、驚くべきことに二人組みのFBI捜査官であった。たった今名乗ったモルダーなる男と、スカリーなる女性。 ざわつくナワヤたちを余所に、MMRリーダーのキバヤシは椅子を勧めると眼鏡を光らせた。眼光背紙に徹するといった態で、モルダーを見据える。 「で、ご用件は?」 「ええ、今世界各地で目撃されている巨大エイリアン。貴方がそれについての専門家と伺いましてね」 「なるほど、では、このような資料が必要というわけでしょう」 どさり、と積まれた無数の紙の束。躊躇することなく、モルダーはそれに手を伸ばした。 かさかさと、紙を手繰る音だけがしばし響く。 ふと、その手が止った。じっと、一枚の写真を見つめるモルダー。 「やはり……やはりそうだったのか!」 「気付きましたか」 ギラリ。キバヤシの眼鏡が光る。モルダー、深く頷き。 「間違いない、このエイリアン事件は―-」 『グレイの仕業だ!』 モルダーとキバヤシの声が期せずして唱和した。 頷き交わす。目と目でわかりあったか、二人は即座に資料をめくった。 ぺらり。 ぺらり。 数分間、ただ、紙をめくる音のみがオフィスに響く。やがて、二人は資料をデスクへと置くと、深刻な顔をして目を伏せた。 「間違いないですね、モルダー捜査官」 「ああ、私も君と同じ意見だ。そう、このままでは――」 『人類は滅亡する!!』 「な、なんだってーー!!??」 「……モルダー、貴方は疲れてるのよ」 ナワヤたちの絶叫を余所に、呆れたようなスカリーの声。 だが、モルダーとキバヤシの言葉が真実であることを、彼女は直ぐに身をもって知ることとなる。 「ああ――じき、空が暮れるわね」 校舎屋上。薄れゆく陽を見つめつつ、比良坂初音は呟く。 自分たちは人ではない。肝を喰らい血を啜り、魂を貶める妖物である。 同時に、人である面を捨てきれぬゆえに妖怪と呼ばれるのであろう。 本質的に人と異なる存在であれば、興味をよせることも、憎むことも、何より情を寄せるということもないだろうからだ。 そういう意味では、初音は己が人に限りなく近く、同時に遠いことを自覚している。 だが――今の間際、空より来たろうとしているのは、根本的に違うモノだ。 彼らには。 人の心は無い。 人の姿も無い。 あらゆる意味で、人とは隔絶した存在。なれば、人が居なければ存在し得ない妖の類とは根本的に相容れぬモノであろう。 そこにあるのは、食欲と破壊への衝動のみ。 まるで獣――いや、獣以下。 そう、そいつらは、紛れも無い――バケモノだ。 思念を走らせ、気配を探る。初音を待っていたと思しき姿が、一つ。 「――それで、人ならぬ身である私に尋ねたいことがある――そういうことでしたわね?」 風がさあ、と吹きぬけた。黒髪をなびかせ、初音が振り向く。 「その通りです」 初音の後方。夕陽に照らされ、影となっていた少年が頷く。 「奴らを放っていくわけにはいかないのです――牙無き人を守るために。野に咲く名も無き花のために」 三千の英霊を従える若き戦士、葉隠覚悟は強く頷いた。 ――降臨より、一月。 荒廃したマンハッタンを、奴らは埋め尽くしていた。 象徴とも言える摩天楼は既に無く、瓦礫の街に蠢く人はいない。たまに響くのは、寂しげな犬の遠吠えか、食を求める子供の泣き声。 理性を失い、吼え猛るもの。 餓鬼へと堕し、同胞の血を啜り尽くすもの。 異星から舞い降りしモノ共は、我が物顔で人類の世界を蹂躙し続ける。 ――ああ、また、こんなものか。 苦い絶望と共に、エミヤは慨嘆する。 世界的な危機に、守護者として呼び出された自分。 何千何万と戦い、守ってきた。 この地球が、いつ、どこの時代、どの世界の地球かは知らぬ。だが、危機的状況なのだけは間違いなかった。 戦った。 戦った。 戦った戦った戦った戦った! そして結局――またも、守りきれなかった。 見せ付けられたのは危機的状況における人々の浅ましさ。目の前に広がり残ったのは瓦礫と死体の山。 またか。またなのか。 また自分は、こんな光景を見せつけられ、剣の丘に一人立つだけなのか―― ――そして、今。傷つき、身を屈める、二つの姿。 「エミヤ、君の言う通りかもしれない」 一文字隼人は、静かに頷く。睨み返す守護者・エミヤ。 「だが――それでもなお、俺たちにはやらねばならぬことがあり、成さねばならぬ時があるはずだ」 「――では問おう。お前は一体、このような世界で何を為し、何を守るというのだ。守い誓い、戦って戦って戦ったその先に何があるというのだ!?」 「そう――護るべき、正義が」 隼人は大地を踏みしめ、傷ついた体をひきずって立ち上がる。大地を埋め尽くすインベーダー、強く見据え――
流竜馬は路地裏から空を見上げていた。 職もない。知人もない。まあ、無い無い尽くしなのはいつものことだ。 ――いや、月面から奴らが襲来して以来、まともに生きている者などごく一部なのかもしれない。 どこからか世界滅亡を声高に告げる声。もう聞き飽きた街頭演説だろう。 荒廃した生活と世界。永久刑務所から脱走した自分には相応しいかもしれない。 ふう、と、溜息をつく。自嘲的な笑い浮かべ、寝そべった瞬間。 空の彼方に、何かが光った。 「……あれは?」 慌てて身を起こす。しげしげと眺めた。 それは、徐々に、徐々にと降下してくる。 記憶の彼方、何かが刺激される。 戦いの日々。 子供たちの笑顔。 散った戦友と、新たな仲間。 そして―― 首を振って否定する。今の自分に、相応しい思い出ではない。 だが――その輝かしい記憶の残滓が、具現化しつつある。 見紛えるはずもない。 忘れるはずも無い。 あの無骨にして優美なフォルム。誇り高き不沈艦。男の中の男が集う理想郷。 「アルカディア号……キャプテン……ハーロック!!」 瓦礫の山が押しつぶされる。激しい風に目をつむることなく立つ竜馬の前、髑髏の旗をたなびかせ、アルカディア号が着艦した。 艦橋から歩み出る眼帯の男。 「久しぶりだな、流竜馬!詳しい話は後だ。今、この地球の危機を救いたくば。君が戦士ならば」 ハーロックは竜馬を見据える。昔日と変わらぬ、強き隻眼。 「――この船に乗れ!」 「勿論だ!」 迷いの欠片も無く。流竜馬は即答していた。 「こいつが生きてるならぶっ殺す!死んでるなら――」 トマホークを大きく振りかぶる。それは、まさに鉄塊。斬るのではなく、潰す。ただそのためだけの、凶悪無比の兵器。 「ぶっ潰す!!」 鉄を、自然を吸収し増殖、成長を続けるエイリアン。その片端から投げ、突き刺し、斬り、焼き払い進撃する鋼の巨神――真・ゲッターロボ! 「露払いは任せとけ!親玉の首はお前にくれてやらあ!!」 「大いに感謝する、輩よ!」 竜馬が叫ぶ。覚悟が答える。 真ゲッターロボの力はまさに圧倒的だった。米軍が手も足も出なかったエイリアンどもを、まるで赤子の手をひねるかのように散ってゆく。 葉隠覚悟は真ゲッターを、竜馬の勇姿を瞳に焼き付けると走り出す。 いかにゲッターが強力といえど、敵の数は無限に近い。いつかは磨耗し、敗れ、塵となるだろう。 それを己に止める手段は無い。止める視覚も無い。竜馬は戦士であり、己もまたそうであるのだから。 なれば、為すべきことは、ただ一つ。 ――俺の人生に愛はいらない ――心に刻んだ唄があるから。心を繋いだ仲間がいるから 「ゆくぞ、零!!」 「承知した、覚悟!!」 三千の英霊の声が響く。勇のため。友のため。何より大義のために――
「零式防衛術正当後継者、葉隠覚悟推参!当方に迎撃の用意あり!!」 そして葉隠覚悟は走り出す。狙うは、首魁の首級ただ一つのみ。 ――状況は絶望的だった。 変幻自在のエイリアン。精神操作に長けた宇宙人グレイ。 倒したはずの首魁はフェイク。奸智にたけた親玉、スティンガーにコーウェンの嘲笑が響く。 対するは、満身創痍の戦士たちのみ。既に護るべき者もなく、寄る辺となる集とてなく。絶望的な戦場に、ただ立つのみ。 「これまで……か?」 誰かが呟いた。正義の担い手たる者が決して口にしてはならぬ一言。それこそが、今の状況を端的に現していた。 コーウェンが嗤う。スティンガーが嘲る。 エイリアンの触手。一撃で、人など弾け飛ぶそれが振り上げられ―― 「待ていっ!!」 刹那。鋭い声が場を制した。 「!!??」 一段高くなった丘。沈みゆく夕陽に照らされ、腕を組み堂々と立つ影一つ。 見上げる。隼人、覚悟、ハーロック、エミヤ。スティンガーにコーウェン。心持たぬはずのインベーダーまでもが、魅入られたように動きを止めていた。 朗々と響く、渋く錆びた男の声。 「水に流すと人は言う。だが、流そうとしても流れないものがある。流れず屈せず、護るべき真……人、それを『正義』という!」 「何奴!!」 「天空宙心拳伝承者、ロム・ストール!義によって助太刀いたす!」 「何故だ。貴様は絶望したのではなかったのか。磨耗し疲弊し、戦うことに飽いたのではないか!」 ソレは絶叫した。 ソレが何であるか知る者は無い。実体も、名も無き抽象存在であるならば、何であるかなどは意味なき問いであろう。 確実なのはただ一つ。ソレを知る者たちには、こう呼ばれていた。 ――「この世全ての悪」と。 「答えろ、エミヤ!!」 絶叫。真紅のコートを翻し、佇むエミヤ。 「――だとしても」 静かに口を開く。 そう、アレの言う通りだ。 己は守護者となったことを悔いている。 戦の趨勢を見つめることに飽いている。 人を守る望みを絶っている。 だが―― 「だとしても。信ずべき友がいる。護るべき大地がある。我が友が、一文字隼人が教えてくれた。今は――それだけでいい」 構える。両手には愛刀、干将莫耶。そして周囲には、無限に広がる剣の世界。 「――いくぞアンリ・マユ。悪意の貯蔵は充分か?」
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