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2010年07月のアーカイブ
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キューバ危機。
この言葉をご存じの方は多いでしょう。1962年10月、ソ連政府がキューバに配置した核ミサイルをめぐり、米ソという二大超大国が核戦争の一歩手前にまで至った歴史的事件ですね。
本書『核時計零時1分前』は、ケネディ大統領(当時)の元に核ミサイル配備の報がもたらされた10月16日から、「暗黒の土曜日」こと10月27日まで、キューバ危機を分刻みで再現したドキュメンタリーです。
世界終末時計をもじったタイトルが表す通り、キューバ危機の勃発からミサイルの撤去までを分刻みで描いています。米ソ首脳陣からキューバ駐留ソ連軍の末端兵士にまで入れ替わる視点、徹底したリサーチ、緊密な構成と、優れたドキュメンタリーの要素をすべて兼ね備えていますね。一度手にとれば眠れないことは請け合い。傑作といっていいでしょう。
本書の魅力の一つは、通説・思い込みを覆してくれることにあります。
私たちは歴史を一面的にとらえがちです。キューバ危機にしてもそう。ケネディは徹頭徹尾平和的な解決を求め、一方のフルシチョフは虎視眈々と世界の覇権を狙っていた。そのようなイメージを抱いている人は少なくないでしょう。
しかし、本書が示すのは真逆の事実です。米ソ二大政府は右往左往としか言えない混乱と迷走に陥っていましたし、偶発的な事故やわずかな誤算が恐ろしい勢いで事態を混迷させていきました。
例を挙げれば、10月27日(土)のこと。「暗黒の土曜日」たるこの日ですが、実のところ、ケネディとフルシチョフの間には既に妥協が成立していました。キューバからのミサイル撤去、及び見返りとしてのジュピターミサイル撤去は約束されていたのです。アメリカにせよソ連にせよ、問題はただ、互いが突き出した核の矛をどうおさめるかにありました。
しかし、そうは問屋がおろしません。北極圏へと調査飛行に向かっていたU2偵察機が位置測定をあやまり、ソ連領内に入り込むという事故が発生します。核攻撃に備えた最終偵察と思われても仕方ないといえましょう。同時期に、キューバを偵察飛行していたU2偵察機がソ連軍の地対空ミサイルにより撃墜されてしまいます。まさに、最悪のタイミングです。
これらの事件を皮切りに米ソの緊張は加速度的に高まります。第三次世界大戦は、核による世界の滅亡は目の前でした。両国の首脳はそんなことを望んでいなかったというのに。
かようにケネディもフルシチョフも状況に振り回され続けました。攻撃一辺倒の強攻策、相手の出方を待つための静観、妥協点を探る構えと、二人はその姿勢をめまぐるしく変えています。ぶれなかったのは当時のキューバ大統領フィデル・カストロくらいでしょう。革命と名誉にこだわり続けた彼は戦闘的な姿勢を崩しませんでしたが、それが祟りキューバ危機以降は米ソ両国から敬遠されることとなってしまいます。その後のキューバがどうなったかは歴史の示すとおり。
本書が教えてくれるのは、歴史というものが慮外の出来事と偶然にいかに左右されるかということです。キューバ危機のような大事件ともなれば陰謀説がそれこそ山と出てくるものですが、「世界征服をたくらむ悪の組織」が自由にコントロール出来るほど歴史は甘くないことがよくわかります。エマーソンが言うように「事象は馬に乗って人を運んでいく」のであり、状況を劇的に動かすのは偉大な指導者よりもむしろ、プライドと恐怖に振り回される小人なのでしょう。常に心に留めおきたいところです。
ドキュメンタリーとしても、考察のための書としても一級品。
おすすめです。
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