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2009年03月のアーカイブ
四月に引っ越すことになりまして、色々と奔走しております。
部屋を探したり、条件を絞り込みで検索したり、不動産屋訪問したり、家賃管理費に頭を悩ませたりetcetc……。
何度やっても手間のかかるものですな。世の中には引っ越しマニア的な方もいますが(有名なところで葛飾北斎や若き日の江戸川乱歩)、ちょっと真似できそうにありません。この時期は光回線の開通も遅くなるし……うーむ、悩ましい。
●今日の横溝正史
■「家系にまつわるオカルト」スレより、2ちゃんねるViewerなしで読めるもの
・「家系」にまつわる恐い話ない
・「家系」にまつわる恐い(不思議)な話しない?
・「家系」にまつわる恐い(不思議)な話しない?
・家系にまつわるオカルト3代目
・【因縁】家系にまつわるオカルト4代目【遺伝】
・【因縁】家系にまつわるオカルト5代目【遺伝】
・【オカルト】家系にまつわるオカルト6代目 【遺伝】
・【因果?】家系にまつわるオカルト7代目 【遺伝?】
・【因縁】家系にまつわるオカルト8代目【遺伝】
どっさりと。読み応えあります
2ちゃんねるオカルト板まとめさんや週刊弐式(ryさんがまとめていらっしゃいますが、生ログに目を通すのもたまにはよろしいかと。興味深いレスが意外なほど見つかりますよ。
それにしても4代目スレの75は凄い。
家の周りで鳥が大量に死んだり、カエルが大量発生したり、必ず枯れる木があったりするのも呪いみたいのなんだろうか?
日本庭園で低い山みたいのを作るのがあるだろ。あれがいっつも禿山になったりとか。
子供のころ人魂を見たとか(紫色でキレイだったそうだ)、皿を数える階段みたいな井戸があって石?の板で負債であったりとかした家なんだと。
井戸には二人か三人、女の骨があるから絶対にあけちゃいかんとか言われたそうだ。
夏は涼しく、虫がいない快適な家だったらしい。その点は誉めてた。
子供のころの記憶だから怪しいそうだけど、家中ペタクソお札が張りまくり。
これって、なんか怪しいことがあるから張ってるんじゃないか?
窓とか勝手口とか、出入りができそうなところには必ず張ってあったそうだ。
黄ばんだ和紙に習字の直しみたいな赤いオレンジでニョロニョロした変なの。
昔はやったキョンシーのお札っぽいやつだったそうだ。
それに黒い普通の墨で四足歩行の動物がかいてある札。
こういうのって、どういう意味かわかる人いないかな?
どんな呪いの館ですか。特に「家の周りで鳥が大量に死んだり」は色々と怖すぎます。鳥インフルエンザじゃないんですから。
そのまま零シリーズの舞台に出来そうだ。
なお、現行スレはこちら。
●今日のオカルト
オカルト板の魔術スレのまとめサイト。
充実しています。ペースはゆっくりですが、一度にどっさりと更新されるため読み応えは抜群。記事一つ一つが長いため、時間をとって読むことをお勧めします。
資料として有用ですが、オカ板で魔術スレという性質上、眉唾ものの記述も少なくありません。その点だけはご注意下さい。
なお、魔術の入門書としては『高等魔術実践マニュアル』がお勧めです。ムー・ブックスながら丁寧に造られており、魔術の基礎知識、タリズマンの概説、ヘブライ語や洋書の資料まで掲載と、新書サイズとは思えないボリューム。良書なのは間違いないのですが……絶版なのですよね。ブックオフ等でたまに見かけるので、じっくり探してみるのがいいかもしれません。
ムー・ブックスという性質のためか、はたまた朝松先生の筆ゆえか、所々「ん?」という箇所があります。そこはご愛敬ということで。
参考までに、G∴I∴K∴O∴書架から「初心者向けの書籍について」を抜粋しておきますね。
初心者向けの書籍について、同2、同3、同4、同5。
来ました。
ついに来ました。ヨハネス・ケプラーの代表的著作が登場です。
ケプラーといえば歴史に残る大天文学者ですが、同時に時代の影響を強く受けたオカルティストでもありました。
解説に「『宇宙の神秘』刊行後、グラーツでの最後の数年間に構想して温めてきた、調和による宇宙論の集大成が、『宇宙の調和』(1619)である」とあるように、『宇宙の調和』ではケプラーの信念――すなわちピュタゴラス的な天球の音楽幻想が炸裂しております。太陽系の各惑星は固有の音階を持ち、全体として音楽を奏でているという概念ですね。
ジェイミー・ジェイムスは『天球の音楽――歴史の中の科学・音楽・神秘思想』で
ケプラーがここで企てたのは要するに、幾何学、音楽、占星術、天文学、そして認識論のいっさいを包摂する一つのジンテーゼの中で、宇宙に隠された究極の秘密を暴き出すことだった。(p. 217)
と述べていますが、まさしくそれを志した一冊といえましょう。
4月が今から楽しみです。
伊藤計劃氏がガンにより亡くなられました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
伊藤さんといえば『虐殺器官』で衝撃的なデビューを飾ったSF界の大型新人だったのは言うまでもありません。しかし、私にとっては何より、ボードゲーム集団「戦慄のマッド軍団」での遊び仲間でありました。
卓抜した知性と批評眼の持ち主であると同時に、マッド軍団有数の個性派でした。ヒライさんが書いているログさん攻撃事件だけではありません。口を開けば出てくるのはバカ映画や童貞の話。バルバロッサをプレイすれば、作成するのは棒にしか見えないエイリアンの頭(参考)。「それはないよ!」と総突っ込みだったことが思い出されます。
おそらくは体力の衰えによるものだったステッキ姿もまた、これ以上ないというほど似合っていました。そして、眼鏡の奥の瞳を細めての、楽しそうな笑み。あれほど笑顔が魅力的な方にはほとんど会ったことがありません。
イノウエさんが言うように、インターネットがなければ伊藤さんと出会うことも、ボードゲームを囲み酒席を同じくすることもなかったでしょう。0と1から成る泡沫のような空間だけがもたらすものがあると、つくづく感じます。出来れば別の形で知りたかったものですが。
人は死に、記憶は消えてゆきます。伊藤さんと交わした言葉にしても、細部は既に薄れつつあります。
それでも、帽子とコートとステッキという佇まい、何よりも、あの素敵な笑顔を忘れることは決してないでしょう。
いつか再び、彼岸ででも遊び、語り、笑い交わすことを祈って。
どうか安らかにお眠り下さい。
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タイトル通り、古今の文献にある妖怪について網羅した事典です。有名な事典であり、妖怪好きな方ならとうにご存じかもしれませんね。
妖怪に関する資料はとにかく多い。本書のあとがきによれば、妖怪事典というくくりだけでも主要なものが複数あるほどです。『現行全国妖怪事典』(昭10)、『日本妖怪変化語彙』(昭50)、『全国妖怪事典』(平8)の3つですね。昨年には『萌え萌え妖怪事典』が発売されましたが、これは事典というより入門書なので割愛しましょう(好著なのでお勧めです)。
かように文献が氾濫する中、あえて本書をお薦めする理由は三つあります。
一つ。入手が容易、かつ情報量が極めて多い。
二つ。文献資料を専門に扱っている。
三つ。総合的なリファレンスと成り得る。
一点目についてはいわずもがな。amazonで24時間発送という入手の容易さは大きな武器です。同じ24時間発送でしたら『全国妖怪事典』の方がお手頃ですが、小学館ライブラリーで284ページというのがネック。事典という性質上、一定以上のボリュームは欲しいところです。その意味で、入手の容易さと情報量を兼ね備えた本書は最適解といえるのではないかと。
二つめ。あとがきでも言及されていますが、今までの妖怪事典は、基本的に民俗学の資料に基づくものでした。怪談本や鳥山石燕による創作妖怪は収められていないのです。その点、本書は古代から現代に至るまでの多数の資料を収集し、妖怪に関する情報を抽出してまとめています。先日取り上げた『奇談異聞辞典』もそこに含まれていますね。いわば妖怪文献に関する良質な二次資料ということ。貴重です。
何より大きいのが三つめです。
amazonのレビューに「既に多量の資料を持つ人の調査・分類の手助けとなるものではないかと感じた」とありますがまさにその通りでして、複数の資料を比較検討する際に大いに役立ちます。
例えば「ヌエ」の項目を見てみましょう。『古事記』に書かれた凶鳥ヌエにはじまり、源頼政によるヌエ退治まで言及されています。これだけでもヌエについて知るには十分なのですが、そのうえ、参考資料として『続妖異博物館』『神話伝説辞典』など複数が並記されています。このため、個別にあたり、ヌエならヌエの概念やイメージの変遷について追うことが可能となっているのですね。
いわば「ヌエ」についてWikipediaを調べたら、詳しい解説に加えて元資料への丁寧なリンクが貼られていたようなもの。その利便性は言うに及ばずでしょう。
この内容で約4000円は破格といえます。是非ともお手元にどうぞ。
●WEB拍手レス
ふと、デカレンジャーの記事が過去にあったことを思い出して、送信です。
今年のスーパー戦隊「侍戦隊シンケンジャー」、おおいにおすすめです!
脚本は、龍騎や電王、タイムレンジャーの小林靖子女史。
水戸黄門でおなじみの伊吹吾郎氏をレギュラーにキャスティングというガチっぷりに、まだ序盤ながら名シリーズの気配がチラリと……?
ちなみに次回(明日!)のサブタイトルは
「夜話情涙川」
これで、「よわなさけなみだがわ」とか。
お手すきでしたら、是非どうぞでございます。
シンケンジャーは凄いことになっておりますね。司令官が伊吹吾郎て。
ラスボスは魔界転生した伊吹吾郎に違いないと確信しております。
ああ、山田風太郎的忍法や朝鮮妖術が出ないものか(出ません)。
日本の人魚って基本的に半魚人ですね。あれです。きっと、ふんぐるい・むぐるうなふ的な世界なんですよ。だから、宵闇眩燈草紙で出てきた和製インスマウスとかの可能性が。もうあれ、大好き。
でも、「海に棲む女性の姿をした妖」というのがいないわけでもなく、磯女とかそんなのが居たような気がしました。
ちゅーか、古今東西の「女性の妖」の話を見ると「美女の姿で男を誘惑して食う」とか「美女の姿で大事な物を奪うと結婚出来る」とかまったくなんという俺たちwwwという感じなんですがそこんとこヤスさん的にはどうなんでしょうか?
あらゆる物語の原型は古代に出尽くしているとも言われますしねー
妖女や異類に誘惑されてもう大変なことに、というのは神話の時代から連綿と続いております。まさしく人間の業。というか我々の業。
まああれです。異類萌えは昔からの定番なのですよ。多分。
すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが、
もしかしてヤスさんは、2chのvip板にやる夫もので
長編スレを立てていたことが御座いませんか?
間違ってたら申し訳ありません。
やる夫スレはROMです。
楽しみにしているシリーズは幾つもありますが、書いたことはないですね。
最近、cgiはおろかサーバー自体に繋がらない事態が頻発しています。ページを開こうとするとまるっきり反応がないことがしばしば。お訪ねくださる皆様にも大変ご迷惑おかけいたしております。申し訳御座いません。
調べてみるとサーバーのXREAに色々と障害が発生している模様。うーむ、これ以上続くとなると移転も考えないとまずい。いっそのことライブドアあたりに移転してしまうか。しかし過去ログの問題があるしなあ。
お勧めのレンタルサーバーがありましたらお知らせくださると幸いです。
●今日のUMA
読売新聞には画像あり。いつも思うのですがこれは人魚というより魚人ではないのか。
そして日本の人魚の歴史は古い。なにせ日本書紀に記述があるほどです。推古天皇の治世27年(西暦619年)に摂津国堀江(現在の大阪)で漁師の網にかかっていたそうな。その大半が怪物めいたイメージである(参考)のが何ともまた。夢に出るぞこれ。
ただ、本邦の人魚がすべて怪物的な外見だったわけではありません。
甲子夜話の巻二十には
全く人体にて腹下は見ざれども、女容にして色青白く、髪薄赤色にて長かりしとぞ。人々怪しみて、かかる洋中に蜑の出没すること有るべからずなどと云ふ中に、船を望み微笑して海に没す。尋いで魚身現れぬ。没して魚尾出でたり。この時人始めて人魚ならんと云へり。
との記述があります。延享年間、玄界灘でのこと。蜑とは海女の意です。
おわかりの通り、かの有名な人魚姫のイメージに近いものがありますね。人魚=美女のイメージが一般に浸透したのは19世紀初頭、ロマン主義の時代に入ってからのこと。甲子夜話の執筆時期とほぼ同時期というのが興味深い(なお、1801年にはドイツの詩人ブレンターノがローレライ伝説を創作しています)。
「色青白く、髪薄赤色」という表現や長崎の近くで目撃されたということを考えると、西洋人(当時風に言うなら南蛮人)のイメージが投影されているのかもしれません。
人魚の概念とイメージの変遷については『人魚伝説』に詳しいです。興味のある方はご一読を。
先日トラックバックをくださった黒従者の夢さんが終末少女幻想アリスマチックを取り上げていらっしゃいます(公式ページ:PC版およびPS2版)。
これは嬉しい。アリスマチックは大好きな作品なのですよ。
なにせ、ジャンルがクトゥルー+オカルト+伝奇+学園もの+剣戟というピンポイントにも程がある作品です。どれほどクトゥルーしているかは黒従者の夢さんを見ていただくとして、注目すべきは剣戟面。
登場人物の大半が剣術(一人だけ槍術)を修めているのですが、その流派が
・主人公:タイ捨流
・ヒロイン陣:新陰流、寶藏院槍術、富田流小太刀、二天一流
・サブキャラ:愛洲陰流、薩摩示現流
ですよ。充実しすぎでしょう。
敵キャラで馬庭念流遣い(得物はサーベル!)まで出てくるというサービスぶりです。剣豪小説でもそうそう見ないぞ、あれ。
加えて、彼ら彼女らが手にしているのは、長船兼光四尺六寸や三池典太二尺三寸といった大業物ばかり。「プレロマ」と呼ばれる仮装空間で繰り広げられる丁々発止の剣戟は伝奇時代小説そのものです。刀剣や剣術へのこだわりも並大抵ではなく、お好きな方ならそれだけで満足できるのではないでしょうか。
特筆すべきはキャラの魅力です。
主人公の丸目蔵人の格好良さは特筆もの。
心身共に強壮、タイ捨流の達人クラスの遣い手、剣術バカを自認するほどの求道性(フラグ立てより屋上での素振りを優先するタイプ)と、古風な武藝者を思わせる造形です。それでいながら木石めいた朴念仁ということもなく、ユーモアを解し軽妙なやり取りもこなすという万能ぶり。
地下鉄の駅で襲撃されるシーンなど典型でして、状況に即応し敵を迎撃、その一方でヒロイン陣をカバーするのも忘れない。不必要に悩んだりヘタレたりすることがないため、プレイしていて心地良いです。
観念的な善悪や世界を救うという大義名分ではなく、目の前の正義と義侠心で動くという性格がいいですね。これぞ正しい伝奇ものの主人公だ。
ヒロイン陣も個性的です。なかでも、高貴にして典雅、冷静沈着博識多彩な月瀬小夜音の魅力は圧倒的。完璧超人ながら筋金入りの箱入り娘のため、野趣味を色濃く残した蔵人に翻弄されてしまう姿が愛らしい。蔵人と小夜音のやり取りには思わずニヤついてしまうこと請け合いです。問答無用の極悪人がいないのも安心出来るところ。
ルートとしては小夜音ルートが出色かと。オカルト的ガジェット、シナリオの展開、キャラの関係性の変化、どれもがハイレベルでまとまっています。海底ケーブル断線の理由には爆笑しながら納得してしまいましたよ。その手があったか。
また、蔵人vs小夜音の二回戦は本作のベストバウトでしょう。BGMがいいんだ、これが。
PC版は体験版が公開されています。一度プレイしてみてはいかがでしょう。
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キリスト教には様々な教派があります。カトリック、プロテスタント、そして東方正教会。東方正教会の一派たるロシア正教会は我が国とも縁が深いですね(Wikiの記述が充実しています)。
ロシア正教の一派に
本書『聖なるロシアを求めて』は、旧儀式派の歴史、実態、伝説などについて解説した好著です。特に旧儀式派特有のユートピア伝説に頁の多くを割いていますね。
旧儀式派のユートピアは多様です。旧儀式派の始祖アヴァクームが見た「教会はもちろん、礼拝堂すら欠けている」非楽園的な幻想、スヴェトロヤール湖に沈む「見えぬ町キーテジ」、カザーク(いわゆるコサック)たちが夢見た「イグナートの町」……とりわけ印象的なのが「
白水境。それは古き信仰を守る良きキリスト教徒のみが集う理想郷です。遥か遠くの巨大で壮麗な都市に正しき伝統を受け継ぐ聖者たちが住むという……ユートピア伝説の典型ですね。ありがちといえばありがちですが、白水境=日本と考えられていたというのは驚きでした。南方幻想ならぬ東方幻想でしょうか。
加えて、白水境伝説は単なる伝説に留まりませんでした。「ロシアの多くの農民をしばしば破壊的な実践行動に駆り立てた」とあるように、旧儀式派にとっては大きなリアリティを持つものだったのです。「日本国への旅案内」なる写本が残されているほどです。一八九八年には、グリゴーリイ・ホフロフなるカザックが、白水境を求め、イスタンブールを経て長崎にまで辿り着いています。
本書第三章ではホフロフの旅行記がダイジェストで紹介されており、トリビア的な意味でも面白い。途中立ち寄ったアトス半島のパンテレイモン修道院では、修道僧がタコらしき海産物と大きなエビを食用としていたそうな。
比較文学者川端香男里は「神話や民衆の伝説などに見られる地上楽園はユートピアの原型であるが、地上楽園は地上のどこかにあるので、それはただ発見されることを待っているだけである」と述べています。旧儀式派にとっての白水境は、文字通り「どこかにある」地上楽園だったのでしょう。ユートピアとは地上にあろうと天上にあろうと所詮は無可有郷。彼らの探索は空しい努力だったのかもしれませんが、その情熱には感銘を受けざるを得ません。私たちは常にここではないどこか、手の届かない理想郷を求めているものなのですから。
充実の一冊。お勧め。
ネタ集、素材集としても好適なので伝奇好きな方も是非どうぞ。
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驚くべき博識、柔和ながらも鋭さを失わない独自の視点、何より、高級な茶葉を思わせる品格ある文体。
本書『書を読んで羊を失う』はそれらを兼ね備えた読書エッセイの名品です。
といっても、本についてだけ語っているわけではない。むしろ、書を核として多様なエピソードを綴っているといえるでしょう。
話題は多岐に及びます。枯れ葉を用いた紙魚の防ぎ方、洋の東西におけるページのめくり方の違い、中世ヨーロッパと古代中国における本占い、紀元前の西アジアからペローの童話集に至るまでのシンデレラ物語の変遷、などなど。いずれ劣らず魅力的な逸話が次々と語られます。古代や中世においては、声を出さずに読む=黙読は珍しい行為だったという話には驚かされました。
それにしても著者の博覧強記には圧倒されます。「記憶術」の項を例にとれば、客から出されたお題を忽ち記憶し舞台の上で完全に再現してみせたという寄席芸人・一柳斎柳一(回文ですね)から説き起こし、天保年間の頃に記憶術を売り物とした随筆があったこと、イエズス会士マテオ・リッチが明朝において記憶術を披露し現地の知識人を驚愕させたこと、記憶術の実践では馴染み深い空間を記憶の縁として用いること(参考:記憶の宮殿)……わずか十二頁に詰め込まれた情報量は並みではありません。それでいながら単なる引き写しとはなっていない。闊達自在な引用の筆は一読の価値ありかと。
特筆すべきは、抑制のきいた筆致です。自称読書家にありがちな、本や読書を出汁にして己を語るということがない。主役はあくまで書物と余話逸話であり、著者は黒子に徹しています。品位ある文章、というのはこのことでしょうね。見習いたい。
特徴的な題名は、羊牧をしていた男が読書に夢中になっていたら肝心の羊はどこかに行ってしまっていたという故事から。さすがに現代日本で羊を失うことはないでしょうが、一度読み始めたら時間が失われるのは請け合いです。
ご無沙汰しております。
とりあえずここ数年で一番の山場は乗り越えました。これで一安心。まさかこの年になって点数で一喜一憂するとは思わなんだ。
しばらくはゆったりと安定更新を心がけます。改めてよろしくお願いいたします。
それはそれとして、少し前のエントリーでも取り上げた『骨から見る生物の進化』、重版を待っていたのですが、近場の書店で在庫を見つけたので思わず買ってしまいましたよ。
こちらを見ていただければおわかりの通り、現存する脊椎動物の骨格のみを取り上げた「世界初、驚異の骨格写真集」なのですが、宣伝に偽り無し、美しさが尋常ではありません。
![]() | 骨から見る生物の進化 小畠郁生(監訳) 吉田春美(訳) 河出書房新社 2008-02-20 売り上げランキング : 191057 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
amazonさんへのリンクでこのクオリティですよ。
これだけでお好きな方にはたまらないかと。
ただ美麗なだけではありません。本写真集最大の魅力は、その躍動感にあります。
ヒョウが獲物を捕らえんとし、ウマはヒトを背に疾走する。
ウミガメは泳ぎ、クロコダイルは顎を開き牙をむく。
かように、本書に封じられた動物たちは生前の姿を色濃く留めています。
考えてみれば、奇妙な構図でありましょう。
『骨から見る生物の進化』に収められているのは動物たちの骨格です。腐敗し、解け、分解し、骨となった、いわば動かざる死体であり、静的なオブジェに過ぎない。だというのに、本書の動物たちは疾走し、咆哮し、蠢いている。そこにあるのは劇的なまでの流動性と過剰性――つまりは、バロック的ですらある精神かもしれません。
思えば、博物学黄金時代の図鑑とは瑞々しい自然を封じ込めた書物でした。『ニューギニア及びパプア諸島鳥類図譜』のカワセミがアゲハを捕らえた構図など、典型的ですね。
骨格図鑑にしても例外ではありません。史上最も悪趣味な図鑑まで言われた『陸水動物細密骨格図譜』を見てください。緑豊かな自然を背景に、彩色された骨格がポーズをとるという過剰なまでのダイナミズム。
本書『骨から見る生物の進化』は、これら博物図譜の現代的再話と言えます。冷たく鋭い学術精神と躍動するバロック的な魂の幸福な結合がここにはあります。
本文の記述はやや専門的。ですが、眺めているだけでも十分満足できること請け合いです。絵を描く際の資料としても有用かと。
お値段はかなりのものですが、それだけの価値はありますよ。