漢詩と美酒

 東洋文庫『中華飲酒詩選』をちまちまと読んでおります。中国学者・青木正児の手になる、周代から唐代までの酒に関する漢詩を集め注釈を施したアンソロジー。元々は筑摩書房から出版されていましたが長らく絶版であり、昨年、ようやく復刊されました。

 amazonさんにある「陶淵明、李白、白楽天を中心として、周代から唐代までの多くの詩人の作品から、傑作を選りすぐって滋味豊かな訳と注を施した無類の名著」という紹介文だけでお好きな方にはたまらないでしょう。
 事実、その充実度は素晴らしい。収録された詩は百遍を優に超えているのではないでしょうか。白文、訓み下し文、意訳、注釈が並置されているのも素敵です。原語で読むも、訓み下し文を楽しむも自由自在。詩は原語に限るという話もありますが、訓み下し文の響きというのは良いものです。

 あまりに有名な一篇ではありますが

両人対酌 山花開ク
一盃一盃 複タ一盃
我酔ウテ眠ラント欲ス卿且ク去レ
明朝 意有ラバ琴ヲ抱イテ来レ。

 など、つい口吟みたくなります。

 青木正児といえば本職の中国研究のみならず、中国の飲食や名物に関する優れた随筆でも知られます。特に酒に関しては一家言あったようで、中村喬の「思い出」にもそのこだわりが記されていますね。巻末の「贅言 酒と私」によりますと、中学校にあがる以前から飲み始め、高等学校(今の高校ではなく、いわゆる旧制高等学校)の頃には一端の呑兵衛になっていたそうですから、いやはや、筋金入りです。

 本書および青木正児については、ほーほの落穂拾いさんが、酒の肴にしたい本で紹介していらっしゃいます。まさしく、酒の肴としてこれ以上相応しい書はありません。収められた漢詩の魅力もあり、読み進めるだけでも仙境に遊んでいる心持ちになります。美酒を備えればそこは既にして桃源郷、詩と酒と音色に時を忘れ、現界に帰ってみれば数百数千年が経っていたというのもまた一興でありましょう。

 漢詩や酒を愛する方には必読の一冊です。
 東洋文庫ですからそうそう品切れになることはないでしょうが、増刷を繰り返すということもないはず。興味のある方はお早めにどうぞ。

投稿者: 日時: 2009年02月15日 23:55 Web拍手

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