Search
« 当たりの予感の一冊 | メイン | ショートカット»
![]() | 十二世紀ルネサンス (講談社学術文庫) 伊東 俊太郎 講談社 2006-09-08 売り上げランキング : 193129 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ルネサンス。
この言葉からイメージされるのは何でしょうか。主たるのはやはり、メディチ家、ミケランジェロ、ラフェエロ、そして、万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ……すなわち14- 16世紀のイタリアに花開いた芸術文化でありましょう。私にしても、ルネサンスと言われれば、かの「最後の晩餐」(音が出ます。注意)の如き華やかな絵画と建築を思い浮かべます。
そこにあって、十二世紀ルネサンスというのは少々耳慣れない言葉かもしれません。少なくとも私は初耳でした。
もっとも今日ではWikipediaに項目がありますし、教科書にも載っているそうですので私が不勉強なだけかもしれません。反省。
イタリア・ルネサンスに至るまで、幾度もの文化革命があった。中でも十二世紀は比類なき創造的かつ知的な時代であり、失われていたギリシャ文明、わけても科学を再発見し、咀嚼し、その後のヨーロッパ文化を導いたと。それこそが「十二世紀ルネサンス」であったといえましょう。
その上で本書は、「最初にギリシャ文明というものがあり、それからヨーロッパの地中海文明があり、西ヨーロッパの文明はその直系の嫡出子だ、という単線的な系譜」(p. 285)に異議を申し立てます。
十二世紀ルネサンスの原動力となったのはむしろ、イスラム帝国領域とキリスト教圏が接していた地域――例えばイベリア半島におけるアラビア文明との文化的交流であった。著者はそう言います。
本書から引用するならば
西ヨーロッパが、アラビアとビザンティンを介して、ギリシアとアラビアの学術・文明を受け取り、その後の世界史の中心へと乗り出してゆく知的基盤をはじめてつくり上げることが出来ました。そういう意味で、十二世紀西欧の知的離陸の時代であり、これが他ならぬ「十二世紀ルネサンス」だ、というふうに私は考えるわけです。(pp. 28- 29)
ということ。
つまり、ヨーロッパ文明、とりわけ学術的文明は内発的なものである以上に、十二世紀アラビア文明との接触を経て花開いたと提唱しているわけです。
アラビア学問の影響の下に、バースのアデラード(ユークリッド『原論』のラテン語訳を行った大知識人)をはじめとする有名無名の知識人たちが新しい自然観を切り開いたというわけで……パラダイム・シフトが起こったというところでしょうか。
この主張を、著者は豊富な文献や翻訳をあげて証明していきます。一言一句おろそかにしない、隙のない緻密な、それでいながら躍動するような論証の過程こそが本書最大の見所といえましょう。特に『与件』(『原論』の続編)のラテン語翻訳者が何者であるか論じた第六章は必読。著者の学位論文の解説ともなっており、知的興奮が味わえます。
当時の知識人たちのエピソードが折に触れて紹介されるため、トリビア的な知識も豊富ですね。個人的に興味を惹かれたのは、アデラードが編述した錬金術書に「アルコール」という言葉がはじめて見出されるということでしょうか。酒自体は古代から連綿と作り継がれてきましたが、「アルコール」概念がこの時代にはじめて伝わったというのは面白い。
ところで本書、元々は岩波市民講座をテープ起こしして編集したものだそうです。このレベルを市民講座でやっていたというのは凄い。「原論」のラテン訳写本を、講義資料として用いたりしていますからね。書籍化の際に手を加えているとはいえ、並の大学の授業では足元にも及ばないでしょう。
索引、参考書目が完備されている上、十二世紀におけるギリシア・アラビア学術書のラテン語一覧まで付されています。資料としても好適かと。
知的興奮に満ちた素晴らしい一冊です。絶対のお勧め。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.gyosekian.net/mt-tb.cgi/706