怪の図書庫:「シャーマンの世界」

シャーマンの世界 (「人類の知恵」双書)シャーマンの世界 (「人類の知恵」双書)
Piers Vitebsky 岩坂 彰

創元社 1996-11
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霊に追われるイメージはときに性的な色合いを帯びる。先にソーラ族の女性シャーマンが地下界で近親結婚をして力を得る例に触れたが、シベリアと中国の境界付近に住むナナイ(ゴルド)族の男性シャーマンの場合、病気の間に美しい女性がやってきて、このように告げる。「私があなたを選んだ霊です。あなたの祖先にもかつてシャーマンになるように私が伝えました。今度はあなたの番です。老いたシャーマンは死に、いま、人々を癒す者がいません……。私はあなたを愛していますから、私の夫にならなければなりません。守護霊を与えましょう。あなたが人々を癒すのを助けるでしょう……。これに従わないと――私があなたを殺すことになります」。(pp. 57- 58)

 ……のっけからヤンデレ気味な台詞で恐縮ですが、これは本書『シャーマンの世界』で紹介されているエピソードです。先日もご紹介しましたが、シャーマニズムとシャーマンについて手際よく解説した好著と申せましょう。

 章立ては以下の通り。

・第一章:シャーマンの世界観
・第二章:土地ごとの伝統
・第三章:シャーマンへの道
・第四章:シャーマンの癒し
・第五章:現代のシャーマニズム。

 見ての通り、シャーマニズムについて広範にカバーしています。本文は百八十頁とやや薄手ですが、それだけに密度は濃い。フルカラーかつ写真や図版が充実しているため、眺めているだけでも楽しいです。

 本書ではシャーマンを

シャーマンとは基本的には、みずからのコントロールの下に魂を異界に飛ばし、ふつうの人々には見えにくい霊と交渉することで、この世のさまざまな問題を解決する人々である。(p. 6)

 と定義しています。
 憑霊――つまりは、死者や霊魂が依り代に乗り移る現象と区別しているのがポイントでしょう。憑霊された側は一般的に霊の意志に従うのに対し、シャーマンはあくまで霊魂をコントロールするものです。この違いは二つの混同を避ける上で重要であり、押さえておきたいところ。

 この定義に基づき、シャーマンについて多面的に紹介しています。「守護霊と死」「霊との戦い」「音楽、踊り、呪文」など、いかにもな項目が満載。シャーマン個々人のトランス経験やエピソードも多く盛り込まれており(冒頭はその一例です)、シャーマニズムの基本を楽しみながら理解できるようになっています。
 各項目が見開き数ページで完結するため、拾い読みするだけでも面白い。また、シャーマンの呪術、呪文、幻覚剤などについても触れられているため、調べ物や創作等の資料としても有用です。

 なお、シャーマンを単なる神秘的な存在として扱っていないのが興味深い。

「シャーマンもやはり、社会的、文化的状況の中に置かれている(p. 11)」「シャーマン的行動は国家権力の中枢との関係に強く依存しており(p. 41)」等の記述や「シャーマンと政治」という項目が設けられていることから、シャーマンをあくまで社会的な存在の一つとして扱っているのがわかります。意外と無視されがちな点でして、無闇に神秘主義的傾向に陥らないためには大事なことでしょう。エリアーデの『シャーマニズム』についても批判的に言及されています。

 関連して興味深かったのが、シャーマンの用いる駆け引き技術について。

 カナダはクワキュート族のケサリドなる男は、シャーマンなどインチキだと考えており、その化けの皮を剥がしてやろうとしました。そのために学んだのは、気を失った振りの仕方、思いどおりに吐く方法、毛玉を用いて病を癒すトリックなどの技術。ケサリドはこれらの技を用い、シャーマンとしての活動を行い、それがまったくうまくいくのを知ってやりきれなくなります。彼は「偽」シャーマンたちのインチキを暴くと同時に、大シャーマンとしての名声を得ていたのですが、ある頃から考えが変わり……という話。

 ケサリドの意識が具体的にどう変わったのかは本をご覧いただくとして、シャーマンという役割の意味と意義が伝わる変化となっています。

 巻末の資料編も充実。出典、索引、参考文献、民族についての説明の他、シャーマニズム運動を実践している団体の連絡先まで揃っています。本書を手がかりとして、シャーマニズムについての勉強を進めることも出来ましょう。
 表面だけなぞった入門書や怪しげなサブカル本とは一味も二味も違う本書、シャーマニズムに興味があるならば勿論、そうでない方も手にとってみてはいかがでしょうか。

投稿者: 日時: 2009年01月08日 22:24 Web拍手

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