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「誰かが私に言ったのだ 世界は言葉で出来ていると」
津原泰水の『綺譚集』が文庫になるようです。12月後半には本屋に並ぶ模様。『異形コレクション』収録作を中心に、十五篇が収録されています。
断言しますが、『綺譚集』はオールタイムベスト級の傑作短篇集です。ホラー、怪奇文芸、幻想文学を愛するならば、何を差し置いても手に取るべき一冊と確信します。
一口に傑作といっても色々あります。『綺譚集』最大の魅力はひとえにその文章でしょう。とにかく一篇一篇の密度が尋常ではない。句読点一つおろそかにしない凝集度は時として息苦しくなるほどです。多種多様なイメージを言語に凝結させ、最終的に独特の世界を構築する手腕は並外れています。津原泰水といえば怪しいまでの文章力で知られますが、その作品群にあってもベスト3に入るのではないでしょうか。
論より証拠。幾つかの作品から冒頭を引用してみましょう。
「天使解体」
三回忌がまる三年目になってしまったが、その程度で腹を立てる亡父ではあるまい。昨年の今頃は母が入院していたし、以後も長子たる私が、生まれて初めて経験する原稿依頼の殺到に、呑まれ、揉まれて、無我夢中でいた。
「古傷と太陽」
俺の番か。困ったな。君らみたいに得意のネタの持ち合わせはないんだ。それに君らが話してきたのは、本当は本で読んだり映画で見た話ばかりだろ? 誤解するな。悪いと言っているんじゃない
「玄い森の底から」
さんざっぱら我慢に我慢を重ねた青春だったっていうのになんでそのうえこんな汚い場所で犯されながら殺されなきゃいけないんだろうと思うと涙や洟水があとからあとから溢れ出して耳のなかや髪のなかまで流れ込んできた。花火のにおいがする。夏が終わる。始まりはいつも夏の終わりだ。
私小説風の端整さがある「天使解体」、ざっくばらんな語り口の「古傷と太陽」、息の長い饒舌体「玄い森の底から」と、作品毎に異なる文体と技法を駆使しているのがおわかりいただけると思います。十五篇全てにおいてこの調子であり、弛緩した文体など一つもありません。それでいながら、これぞ津原泰水と呼ぶしかない色と匂いが確かに在る。
澁澤龍彦は「神秘や怪奇を美に変ずる言語の力、あり得べからざる一つの状況設定から、一篇のロマネスクを組み立てようとする人工的な物語作者の意志」を称揚していますが(『暗黒のメルヘン』464ページ)、『綺譚集』こそは其の意志が結晶した一冊といえましょう。
四の五の語る作品ではありません。ただ味わい、酔いしれてください。
必読です。
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