読書録「奇談異聞辞典」

奇談異聞辞典 (ちくま学芸文庫 シ 22-3)奇談異聞辞典 (ちくま学芸文庫 シ 22-3)
柴田 宵曲

筑摩書房 2008-09-10
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 いや、驚きました。まさかこれが文庫入りするとは。

『奇談異聞辞典』はその名の通りに、江戸時代の随筆集から奇談異聞ばかりを抜粋し五十音順に見出しをつけたものです。
 編者は柴田宵曲。宵曲といえば、「ホトトギス」一派の俳人であり、かの森銑三と並び称される在野の碩学です。怪奇幻想ファンには『妖異博物館』の著者としてお馴染みでしょうか。無類の博識を有し、香気漂う随筆の名手でもありました。清廉にして品格ある文章はまさに文人と呼ぶに相応しいものでしょう。

 本書は元来、江戸随筆のテーマ・アンソロジーとでもいうべき「随筆辞典」の一巻でした。正確には、「第四巻 奇談異聞編」を文庫化したものです。
 江戸時代を通じて随筆は山とありますが、花形といえばやはり怪談奇談ではないでしょうか。南町奉行根岸鎮衛の著した『耳嚢(耳袋)』を筆頭に、まさしく百花繚乱、百鬼夜行の趣きがあります。

 その『耳嚢』をはじめ、本書に引用された随筆集の数、実に百七。煩悩に一つ足りないところがまたよろしい。
 何気なく頁を繰るだけでも「地下生活三十三年」「竹林院不明の間」「池水の怪」「地中の声」「地中の仏像」……字面だけで魅力的な項目が並んでいます。試みに「竹林院不明の間」を引いてみましょう。


……山門(延暦寺)に竹林院といふ坊あり。その内に児がやといひて、開かざる間あり。宝暦七年法華会の行事に、権右中弁敬明まかりて、かの坊に宿りけるに、家人をしてひそかにかの間を開きこころみしむ。うちは暗くて、何もなかりける。冷気身をおそふとおぼえて、たちまちかの身のわづらひつき、家に帰るとそのままに失せぬ……


 とまあ、全編この調子で奇談異聞が並んでおります(それにしても淡々とした「そのままに失せぬ」が怖すぎます)。
 引用書目一覧と索引も完備されており、怪異ファンや伝奇ファンには必携の一冊と申せましょう。
 お手元に是非どうぞ。
 

<関連リンク>
・『江戸怪談集』(江戸時代の怪談集全十一種から怪談を精選、脚注をつけた必携書)
・『素白随筆集』(柴田宵曲と親交のあった文人、岩本素白の随筆集。名著)

投稿者: 日時: 2008年11月11日 22:31 Web拍手

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