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まずタイトルがいい。『夢遊病者の円舞曲』という響きからして絶妙です。これだけで映画や小説が一本出来てしまいそうだ。
さて、私がこの書を知ったのは久世光彦の好著『蝶とヒットラー』でのことでした。それ以来気になっていたのですが、近場の古書店で偶然発見したので即購入。一読三嘆した次第です。
著者の松井邦雄はラジオ東京(TBS)のプロデューサーであり、ラジオドラマなどを手がけていました。優れたエッセイストであり、『望郷のオペラ』『ヨーロッパの港町のどこかで』などの著書があります。
本書は古今の歌を縁に著者が記した「コラージュ風臨書報告書」ですが、なんといっても文章がいい。感傷的とすら言える情緒的な甘さとおそるべき博識が渾然となり、阿片にも似た酩酊的な文章世界を作りあげています。
実際に引用してみましょう。
こんな夜は、サメディ男爵も死霊たちも墓地の片隅で雨に打たれながらなにがなし身を噛む悲しみにひしがれてもの思いに耽ったりするのだろうか。「シュクーヌは妙にけだるく里心をそそる。私もまた愁い顔でラム・パンチを追加することにした。
いい。文章もいいし、サメディ男爵というのがまたいい。声に出すだけで酩酊できます。色気と渋みのある声で語って貰いたい。
黒いパイプ、肺病病みの少女、幻想のベル・エポック……扱われたモチーフはどれも浪漫的でありながら放縦に流れることなく、端整さを失っていません。久世光彦の文章もそうなのですが、優れて知的な書斎派がパイプを片手に語っているような印象を受けます。
絶版ではありますが、入手は容易。お勧めです。
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