Search
ご無沙汰して申し訳ありません。庵主は何とか生きてます。
久々の更新はお勧めの小説を一冊ご紹介。
![]() | だれもがポオを愛していた (創元推理文庫) 平石 貴樹 東京創元社 1997-08 売り上げランキング : 539123 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
メリーランド州、ボルティモア。古くから良港として知られるこの独立都市で奇妙な事件が起きた。日系人兄妹の住む館が爆発し、沼へと沈み込んだのだ。妹は奇妙な言葉を残して絶命し、兄の遺体は沼へと埋もれてしまう。兄妹の姓は「アシヤ」――『アッシャー家の崩壊』である。ナゲット・マクドナルド警部補ら州警察が奔走するも、彼らを嘲笑うかのような怪事が続く。死せる美女の歯が折りとられる『ベレニス』、片眼の黒猫と女の遺体が壁に塗り込められた『黒猫』……事件全てが、ポオの小説に見立てた殺人を暗示していた。混迷する事態に挑むは宝石の頭脳を持つ少女、更科丹希。デュパンの直系たる名探偵の披露する推理とは、果たして。
タイトルとあらすじだけでもうノックアウト。
ポーの見立て殺人をテーマとした名作です。いわゆる「新本格」前夜に発表されその筋では高い評価を得たものの、一般にはあまり知られていないまま単行本、集英社文庫版、創元推理文庫版全てが絶版。実に惜しい。
あらすじでおわかりの通り、本作中の殺人事件は全てエドガー・アラン・ポーの諸作品をモチーフとしています。棺に横たわる美女の歯が折られている『ベレニス』のくだりは特に凄惨で印象的。また、探偵役たる更科丹希(通称ニッキ)の披露する推理は心理分析と瑣末とも見える事柄の観察を主としているというデュパン式であり、全編に渡りポー尽くしと言えましょう。
入り組んだ状況が流れるように整理され、巧妙に張り巡らされた伏線の中から驚きの解決が現れるくだりの心地よさは本格ならでは。あっと驚くどんでん返しという類のトリックでこそありませんが、精緻に仕組まれており唸らせてくれます。合理と不合理の間にたゆたい、着地する感覚が味わえることでしょう。
登場人物たちの名前の多くが駄洒落なのは作者の遊び心でしょうか。更科丹希は言うまでもなく『更級日記』ですし、ナゲット警部補の上司はケロッグ警視、同僚はナビスコやバドワイザーときています。この手のネーミングは好みが分かれるところかもしれませんが、読んでいる分には然程違和感がありませんでした。
なお、巻末に付された「『アッシャー家の崩壊』を犯罪小説として読む」は必読。かの『アッシャー家の崩壊』を注意深く読みほどき、一つの犯罪を指摘するこの論考は、ある意味で本編以上に素晴らしい出来となっています。このためだけに読む価値があると断言できます。
amazonの創元推理文庫版はやや高値となっていますが、集英社文庫版(中身は同一)が容易に入手できます。本格好きや怪奇幻想愛好家の方は一冊いかがでしょう。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.gyosekian.net/mt-tb.cgi/647