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2008年06月のアーカイブ
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まずタイトルがいい。『夢遊病者の円舞曲』という響きからして絶妙です。これだけで映画や小説が一本出来てしまいそうだ。
さて、私がこの書を知ったのは久世光彦の好著『蝶とヒットラー』でのことでした。それ以来気になっていたのですが、近場の古書店で偶然発見したので即購入。一読三嘆した次第です。
著者の松井邦雄はラジオ東京(TBS)のプロデューサーであり、ラジオドラマなどを手がけていました。優れたエッセイストであり、『望郷のオペラ』『ヨーロッパの港町のどこかで』などの著書があります。
本書は古今の歌を縁に著者が記した「コラージュ風臨書報告書」ですが、なんといっても文章がいい。感傷的とすら言える情緒的な甘さとおそるべき博識が渾然となり、阿片にも似た酩酊的な文章世界を作りあげています。
実際に引用してみましょう。
こんな夜は、サメディ男爵も死霊たちも墓地の片隅で雨に打たれながらなにがなし身を噛む悲しみにひしがれてもの思いに耽ったりするのだろうか。「シュクーヌは妙にけだるく里心をそそる。私もまた愁い顔でラム・パンチを追加することにした。
いい。文章もいいし、サメディ男爵というのがまたいい。声に出すだけで酩酊できます。色気と渋みのある声で語って貰いたい。
黒いパイプ、肺病病みの少女、幻想のベル・エポック……扱われたモチーフはどれも浪漫的でありながら放縦に流れることなく、端整さを失っていません。久世光彦の文章もそうなのですが、優れて知的な書斎派がパイプを片手に語っているような印象を受けます。
絶版ではありますが、入手は容易。お勧めです。
また一つ歳をとりました。
それはともかく、少し前に日経サイエンス等で取り上げられていた『ヒトは食べられて進化した』を読んでいるのですが、実に興味深い内容です。
主張の眼目は、ヒトは最強の狩猟者などではなく、むしろトラ、ライオン、ヒョウ、クマ、ワニ、ヘビ、オオカミ……無数の狩猟生物たちに追われ狩られる被食者であったということ。レイモンド・ダートのキラーエイプ説以来、「狩りをするヒト」のイメージが一般に流布してきましたが、著者たちはそれを真っ向から否定します。ヒトは常に脆弱であり、食われる側であったとの主張は学際的なデータに基づいており、説得力あり。被食者としての自然淘汰圧が人類を進化させたという意見には膝を打ちましたよ。
訳文も良いため、硬派な内容の割りにすらすら読めます。今日中には読み終わるかな。いわゆる人食い動物についての記述にかなりの項を割いているため、博物誌的な興味も満足させてくれます。ナイルワニの犠牲者は未だに年間数千人にのぼるというのは衝撃的だった……。
●今日の文庫
岩本素白『東海道品川宿―岩本素白随筆集』に続いては川上澄生『明治少年懐古』ですよ。キヨスクの販売力に期待するとのことらしいですが、キヨスクで売るには渋すぎるだろこれ。だがそれがいい。
素白に関しては平凡社ライブラリ『素白随筆集―山居俗情・素白集』もお勧めです。大半の随筆を読むことが出来ますので。
●今日の川尻
塾長の所より。
これは何を差し置いても行かなければ。獣兵衛忍風帖とDの併映というだけで出向く価値はありますよ、はい。
ハイランダーも7/5から公開だし、楽しみだなあ。
●今日の進化論
これは大発見だ。論文読まにゃ。
尾索動物が前索動物に先立っていたとはなあ。今後はナメクジウオの研究が増えそうですね。
ハイライトについてはNatureのホームページで読むことが出来ます(要ログイン)。
●WEB拍手レス
ふと思ったんですがUMAのGoatmanってパンの大神やシュブ=ニグラスの眷属っぽくないでしょうか?
そもそも見た目からして神話体系向きのUMAな気が。アーサー・マッケンの小説とかに出てきてもおかしくなさそうな。あと最近深海の生物を見てきたのですがムラサキカムリクラゲとかベニマンジュウクラゲなんて地球の生き物には見えませんでした。やつらは異常だ。
言われてみればあのデザインはホラーです。なんというパンの大神。
深海は独自の生態系を経ているだけに見ているだけで面白いですね。
はじめまして、無銘三代目といいます。
いつも拝見させてもらってます。
紹介された本。殆んど読ませてもらったんですが山魔の如き嗤うものを読んでいないと知り、こうして拍手させてもらったのですが、かなりお勧めですよw
はじめまして。どうぞよろしくお願いいたします。
山魔は評判いいですね。積本が多くて伸び伸びになっているのですが読まないと……
三津田作品では長らく絶版だった『ホラー作家の棲む家』が文庫化になるようで、そちらも楽しみです。
クロノベルト三編ぶっ続けでプレイいたしました。素晴らしかった。特に九鬼先生が。クロノベルト編ではその最強振りを封印されている感じがしましたがなんていうか、主役・アルフレッドで真の主役・九鬼先生に見えるのはボクだけではないでしょう。えぇ。
あと、マグダラがえろっちくて良かった。同日発売のクロノレディオは良い意味でひどかったです。コゼットは確かにひんにゅ……おや? こんな夜更けに誰だろう?
しかし、なにより楽しかったのは輝義とベイル夢の共演だったりする。何気にアッシュ+光念兄弟という取り合わせも素晴らしかったです。
なにはともあれ満足。ただ、欲を言うのならばもっと神沢学園に通っていたかった。……俺もう24だけど。
ま、ともかく非常に楽しかったです。クロノベルト。
クロノベルトは非常に楽しうございました。
九鬼先生は本当に主役でしたなあ……最初から最後まで美味しいシーンが多すぎる。vsエルネスタやvsマグダラが実に良かった。
あやかし、BB、クロノベルト。そして次の作品が今から楽しみですよ。
ご無沙汰して申し訳ありません。庵主は何とか生きてます。
久々の更新はお勧めの小説を一冊ご紹介。
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メリーランド州、ボルティモア。古くから良港として知られるこの独立都市で奇妙な事件が起きた。日系人兄妹の住む館が爆発し、沼へと沈み込んだのだ。妹は奇妙な言葉を残して絶命し、兄の遺体は沼へと埋もれてしまう。兄妹の姓は「アシヤ」――『アッシャー家の崩壊』である。ナゲット・マクドナルド警部補ら州警察が奔走するも、彼らを嘲笑うかのような怪事が続く。死せる美女の歯が折りとられる『ベレニス』、片眼の黒猫と女の遺体が壁に塗り込められた『黒猫』……事件全てが、ポオの小説に見立てた殺人を暗示していた。混迷する事態に挑むは宝石の頭脳を持つ少女、更科丹希。デュパンの直系たる名探偵の披露する推理とは、果たして。
タイトルとあらすじだけでもうノックアウト。
ポーの見立て殺人をテーマとした名作です。いわゆる「新本格」前夜に発表されその筋では高い評価を得たものの、一般にはあまり知られていないまま単行本、集英社文庫版、創元推理文庫版全てが絶版。実に惜しい。
あらすじでおわかりの通り、本作中の殺人事件は全てエドガー・アラン・ポーの諸作品をモチーフとしています。棺に横たわる美女の歯が折られている『ベレニス』のくだりは特に凄惨で印象的。また、探偵役たる更科丹希(通称ニッキ)の披露する推理は心理分析と瑣末とも見える事柄の観察を主としているというデュパン式であり、全編に渡りポー尽くしと言えましょう。
入り組んだ状況が流れるように整理され、巧妙に張り巡らされた伏線の中から驚きの解決が現れるくだりの心地よさは本格ならでは。あっと驚くどんでん返しという類のトリックでこそありませんが、精緻に仕組まれており唸らせてくれます。合理と不合理の間にたゆたい、着地する感覚が味わえることでしょう。
登場人物たちの名前の多くが駄洒落なのは作者の遊び心でしょうか。更科丹希は言うまでもなく『更級日記』ですし、ナゲット警部補の上司はケロッグ警視、同僚はナビスコやバドワイザーときています。この手のネーミングは好みが分かれるところかもしれませんが、読んでいる分には然程違和感がありませんでした。
なお、巻末に付された「『アッシャー家の崩壊』を犯罪小説として読む」は必読。かの『アッシャー家の崩壊』を注意深く読みほどき、一つの犯罪を指摘するこの論考は、ある意味で本編以上に素晴らしい出来となっています。このためだけに読む価値があると断言できます。
amazonの創元推理文庫版はやや高値となっていますが、集英社文庫版(中身は同一)が容易に入手できます。本格好きや怪奇幻想愛好家の方は一冊いかがでしょう。