霙さんダブリ説における一試論

 各地におけるBabyPrincessブームは留まるところを知らず、より一層の盛り上がりを見せているようです。

 その中でもホットなトピックの一つが、姉妹たちの年齢ズレ問題でしょう。『死亡フラグ』さんを皮切りに、様々な方が論じていらっしゃいます。(『Cyberfield』さんのアタマの体操『Half Moon Diary』さんの母親二人説など)。

 年齢ズレ問題の詳細については上記のリンク先を参照していただくとして、当面は「1歳ずつ階段になった19姉妹と想定した場合、姉妹の年齢設定に矛盾が出る」と認識していただければ結構です。
 この矛盾を解消するにあたって幾つかの方策が考えられますが、もっとも有効なのはやはり霙さん留年説でしょう。仮定を積み重ねれば他の解釈もありえましょうが、当庵としてはオッカムの剃刀に従い本説を採ります。 YU-SHOWさんは「高二といっても、いわゆる男塾三号生的なもの」と述べていらっしゃいますが、私もこの意見に賛成です。

 ただし、ここに一つの留保をつけたく思います。本解釈をとった場合、一般的に浮かぶイメージは終末論に嵌ったために留年した、あるいは勉強が嫌で終末論にどっぷりという、やや「ダメな娘」的なものでしょう。

 しかし私はこのイメージに違和感をおぼえます。確たる証拠があるわけではありませんが、日記の文体や外見イメージは、ダメな娘という言葉からは程遠いものがあります。想起されるのはむしろ、博識、理知的なオカルト少女というものでしょう。あちこちで指摘されているように、シスプリは千影に近いですね。
 そこで当庵といたしましては、「霙は何らかの理由で留年せざるを得なくなり、それによって終末思想を抱くようになった」との仮説をたてております。

 単なる妄想ではありません。その根拠は、霙の抱いている終末思想にあります。
 改めて霙の日記を読んでみましょう。
 ポイントは末尾の文にあります。


私とオマエが、
そしてこの家族が――
ただその時まで、
ただ平らかに幸せであればそれで良いのだ。

そして、ともに――
宇宙の塵となろう。


 注目すべきは、この文章に内包された感覚にあります。
 一般に終末思想と言う時、我々は意識的/無意識的に西洋におけるそれを想起しておりましょう。ある年代以上の方には親しいものであろうノストラダムスの予言などその代表といえます。
 ですが、この文言に見受けられる感覚は、西洋の、中でもセム的一神教、すなわち、ユダヤキリスト教圏の終末論のものではありえません。何故なら、セム的一神教派生の終末論は、例外なく終末のあとの再生を念頭に置いているからです。黙示録の後には、神の支配する永遠の王国が待ち受けていることを忘れてはなりません。終末の後に来たる永遠の世界こそが、セム的一神教における終末の特徴なのです。「わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった」(口語訳新約聖書「ヨハネの黙示録」より)。

 いえ、セム的一神教に限りません。神話の多くは破滅の後の再生を念頭においています。神々の黄昏(ラグナロク)しかり、カーゴ・カルトしかり、弥勒降臨しかり。ヘラクライトス曰く「万物は流転する」。しかし、流転の果てに待っているのは永遠回帰の果てに来たる理想の古代への帰還であり、素晴らしき新世界なのです(この点において、オルダス・ハクスレーがディストピア小説の題名を『すばらしい新世界』としたのは示唆的です)。

 翻って、霙の終末感はどうでしょうか。
 今一度最後の一文を引いてみましょう。


そして、ともに――
宇宙の塵となろう。


 ここには再生の観念は全くありません。
 終末の後は宇宙の塵となるのみ、その後の再生を全く待望しない。ただ宇宙の塵となり因果地平の彼方に消え去るのみ。
 私はここに、『方丈記』のあまりにも有名な一節を見ます。


行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例なし。世の中にある人と住家と、またかくの如し。


 そう、霙の終末思想は欧州的教養や各地の神話基づくのではなく、完全に日本古来の観念的な無常思想に由来するのです。かような思想は、10代でなかなか身に付くものではありません。思春期特有の皮相的な無常観と考えることも出来ますが、それにしては霙のそれはあまりに板につきすぎています。
 冒頭の仮説で述べた通り、何らかの理由があってこのような思想を抱くようになったと考えるのが自然でしょう。
 考えてもみてください。霙の年齢であそこまで達観するのはかなり困難ではないでしょうか。生来のペシミスト、ニヒリストならばありえるかもしれません。しかし、日記にみられる包容力と照らし合わせるに、霙をペシミスト/ニヒリストであると考えるには無理があるように思います。

 では「何らかの理由」とは何か?
 これも、終末感の内容から類推可能です。

 一般に、人が終末思想を抱くのは二つの場合です。一つは大きな社会不安にみまわれた場合(終末思想はローマ帝国が弱体化した時代に大流行しました)、一つは個々人の存続における危機的状況に陥った場合です。
 前者は考えにくいでしょう。現代日本では、そこまで圧倒的な社会不安は存在しておりません。ベイビープリンセスの世界が我々の暮らす日本とは異なり終末思想を抱かざるを得ない環境に置かれている可能性もあります。しかし、残りの姉妹が終末思想の欠片も抱いていないことから考えるに、それはありえますまい。
 一方で後者は充分有り得ます。社会環境にかかわらず、個々人の存亡の危機は常に現存しています。ただ、あの大家族を心豊かに養えていることからみて、ベビプリ一家に経済的な危機があるという可能性は低いと考えられます。経済的なもの以外で現代日本における極個人的な危機的状況といえば、死に致る病でありましょう。
 そして、19人という大家族ともなれば、そのうち一人が致死的な病を負う可能性はかなり高くなります。霙が偶然そのような不幸に見舞われたとして、何の不思議もありません。

 まとめますと、霙は不可避的な病――おそらくは死の危険性すらある――により一年の留年を余儀なくされ、その結果終末論という名の無常観を抱くようになった
 これが現在までのところの当庵の結論であります。
 よって私は、霙さんダメな娘説に断固として反対するものであります。


 ……言うまでもありませんが、これは一つの試論です。
 元よりベイビープリンセスは個々人の空想こそが最も大事な世界。異論反論はありましょうが、「また何か言ってるな」と寛大なお気持ちで見守ってくださると幸いです。


●WEB拍手レス

「『霙さんを理解するための終末論ブックガイド』、『魚石帖・中間管理職……一見するとただの流れだが、実は隠されたメッセージがあるんだ!」
「ど……どいうことだ!?」
「この中間管理職でのクトルゥーのだらしなさ。これはまるで週末を満喫する学生のようだ!そして霙さんもまた学生!つまりこの一連の流れは『終末=週末』をかけるための壮大な前フリでもあったんだよ!!」
「な……な(ry」

……なんかもう御免なさい。ブックガイドにノストラダムスとMMRがあったもんでつい。

 な、なんだっ(ry
 終末=週末はいい語呂合わせですよね。

能登麻美子さんには伝奇モノのヒロインやって欲しいなあ。
それこそ横溝先生の作品とか、京極夏彦の「うぶめの夏」みたいな。
うらぶれた洋館に、半ば監禁状態の女の子。
で、最後は燃え上がる洋館から脱出。
これは外せないですね。
できれば黒髪ロングに旧式セーラー服で。

……アトラク=ナクア?

 まあ黒髪セーラーは定番ですから。
 それにしても姉様はいい。

どんなに待ったか、貴志先生!
去年の10月発売の筈が延びて延びて。硝子のハンマー文庫版でどうにか間を繋いでました。すいません、取り乱す程に好きなのですよ!
個人的には囀り、クリムゾンの順番ですかね。

 貴志先生は外れなしですからねー。
 クリムゾンも名作でした。あの余韻を残す終わり方がいいんだ。

投稿者: 日時: 2008年01月27日 23:00 Web拍手

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コメント: 霙さんダブリ説における一試論

>10代でなかなか身に付くものではありません

三号生筆頭大豪院邪鬼様がどう考えても十代ではありえないように、霙姉さんもまた――そう、年齢相応の思想の持ち主だったんですよ!(という推論というか願望)

投稿者 YU-SHOW | 2008年01月28日 20:20

>終末=週末はいい語呂合わせですよね。

その昔、『終末の過ごし方』というヒロイン全員メガネっ娘
なエロゲーがアボガドパワーズから出てましてですね。

名作ですので、お薦め

PS
 初めまして、なのに挨拶も抜きに失礼いたしました。

投稿者 勾玉 | 2008年01月28日 23:22

大変ご無沙汰しております、ブログでは初めまして。

霙さん高二の理由ですが、彼女の「進学」が終末を引き寄せるフラグの一部をなしており、破滅への残り時間を少しでも延ばすべく故意にサボ……単位を落とし、留年しつづけているという大胆な仮説はいかがでしょうか。

投稿者 いずみの | 2008年01月29日 10:38

>YU-SHOWさん
なるほど、それなら霙さんの圧倒的包容力も説明がつく!
実際あの包容力は最大の魅力だと思います。

>勾玉さん
はじめまして。お越し下さり有り難うございます。
終末の過ごし方は私にとってもオールタイムベスト級の名作ですね。
あのラジオがいいんだ……

>いずみのさん
ご無沙汰しております。
その仮説ですと作品が一気に伝奇風にシフトしてたまらんものがありますね。
ちょっとMMRっぽいかも。

投稿者 ヤス | 2008年01月29日 23:52

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