読書録「せめて一時間だけでも」

せめて一時間だけでも―ホロコーストからの生還せめて一時間だけでも―ホロコーストからの生還
ペーター・シュナイダー 八木 輝明

慶應義塾大学出版会 2007-07
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 読了しました。
 ユダヤ人音楽家コンラート・ラテが、いかなる人々の助けを得て、いかにしてナチス迫害下を生き延びたかの記録です。やや薄手ながら重い一冊でした。手に取る価値はありますが、下手に読むと精神的にダメージを受けそうだ。

 本書の主役はコンラート・ラテ、そしてラテを助けた市井の人々です。ホロコースト下においてユダヤ人を救うべく行動を起こした無名の市民に焦点が当てられることは殆ど無かったため、その意味でも貴重な資料でしょう(近年ドイツで再評価が始まっているようですが)。
 著者と訳者が折に触れて強調しているように、本書はユダヤ人迫害やそれを静観した人々を肯定するものではありません。むしろ、出来うる限りの善意を奮い起こした方々の姿を記すことそれ自体が、百万言を費やそうとも座しているだけだったという事実への痛烈な批判となっています。

しかしナチスに追われ迫害された者に一片のパンを手渡し、家に泊めてやり、次の宿を手配することに必要なのは、品位と勇気と智恵であって、ただちに死の覚悟を要求するものではない

 本書序盤に記されたこの一節は言い知れぬ重い問いを私たちにつきつけます。
 倫理や信念を口にするのは驚くばかりに簡単です。立派な定見を表明するだけ表明しておきながらその実何もしないなど、誰にあっても日常茶飯事でありましょう。無論のこと私もそのような輩であり、他者を非難する資格などありはしません。まさに「罪なき者まづ石を擲て」です。「品位と勇気と智恵」を己のものとして発揮できる人がどれだけおりましょうか。

 はたして私は――私たちは、かような極限状態に置かれた時にいかなる行為を示すことが出来るのでしょうか?

投稿者: 日時: 2007年10月20日 23:56 Web拍手

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