読書録「物語 中東の歴史」

物語 中東の歴史―オリエント5000年の光芒 (中公新書)物語 中東の歴史―オリエント5000年の光芒 (中公新書)
牟田口 義郎

中央公論新社 2001-06
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 当たりでした。
 中公新書の物語シリーズは全体的に出来が良いのですが(名著『物語 イタリアの歴史』の影響でしょうか)、本書もその例に漏れません。
 副題で「オリエント5000年の興亡」と銘打っているものの、メインはオスマン・トルコ帝国勃興直前までです。正確には「物語 アラブの歴史」と呼べましょう。
 中東と言えばイスラーム、と短絡せずに、シバの女王や、亡都パルミラ最後の主、美貌と才智をもってなる女王ゼノビアから話を始めているのが嬉しいところ。パルミラ滅亡を扱った第二章にはパルミラ地図まで付いており、参考になります。

 イスラーム登場以後は、ヨーロッパやモンゴルとの戦いを軸に、ヌールッディーンや、獅子心王リチャード最大のライバルサラーフッディーン(サラディン)ら、中世イスラーム世界を彩った人々が思い入れたっぷりに描き出されます。歴史的事実の記述にも手抜かりはありません。本書一冊で、11世紀から13世紀のイスラーム世界の流れを掴むことが出来るでしょう。

 もっとも、本書の主役は何といいましても、13世紀イスラーム世界の雄、独眼竜バイバルスです。トルコ系のマムルーク(奴隷と訳されることがありますが、ニュアンスはかなり違います)出身でありながら王朝を創始した傑物であり、自ら前線に立つ軍人でもありました。その軍才は傑出していたようで、当時世界最強だったモンゴル軍をも打ち破っています。
 日本ではマイナーな人物ですが、現地での人気はサラディンや千夜一夜物語で有名なハールーン・アッ=ラシードを上回るそうですね。この人物については殆ど知らなかったため、勉強になりました。
 それにしても見るからに逞しい戦士であり、軍事の天才であり、一代でスルタンにまで成り上がった英雄で、おまけに独眼だったとは。キャラが濃すぎる。

 近現代の扱いが薄いのが難点ですが、新書サイズということを考えれば仕方ない所でしょう。本書外の時代をカバーするために、『中東戦争全史』と併読するのがお勧めです。

 なお、本書で扱われている時代を語るには十字軍の存在が欠かせません。HISTORIAさんのコンテンツ十字軍とその時代 を参考に色々読んでみるのも面白いと思います。


●WEB拍手レス

『聚楽 太閤の錬金窟』は『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス 』の続編的物語なので、先にそちらを読んだ方がいいかと…。

 おおう、続編的なものでありましたか……
『信長~』を探してきます。

投稿者: 日時: 2007年09月12日 21:56 Web拍手

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