読書録「戦場の精神史 武士道という幻影」

戦場の精神史  ~武士道という幻影 (NHK出版)戦場の精神史 ~武士道という幻影 (NHK出版)
佐伯 真一

NHK出版 2004-05-30
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 良書です。
 本書の主張を要約すれば


『武士道』とはフェアプレーと忠義の念を何よりも尊ぶ倫理観とされている。だが、この『武士道』は作り出された幻影である。平安期から戦国時代までの武士とは、夜討ち朝駆け、騙し討ちを常道とする存在だった。彼らにとって名誉とは戦場で手柄をあげ生き延びることであり、そのためにはいかなる手段を用いても敵を倒す必要があったのだ。味方に対しては誠実であったが、それも時と場合によるものだった。


 ということになりましょうか。

 頷ける主張です。
『武士道』というからには、『武士』がいなければなりません。しかし、武士という言葉はひどく曖昧です。太平の中にいた江戸時代の武士と、権謀術数渦巻く戦国時代の武士とでは、倫理観も価値観も全く異なりましょう。
 例えば、映画『ラスト・サムライ』で描かれた武士道は美しいものでありました。しかしそれは戦乱の時代を生き抜いた武士たちの有した『武士道』とは異質なものでしょう。
 歴史は連続していると同時に変化し続けます。社会環境も、人々の精神性も同様でしょう。『武士道』なる心性だけが古来より変わることなく存在したなどという発想は、考えてみれば妙なものです。

 議論の手続きは丁寧です。中世文学の専門家である著者は、多数の文献を引用し主張を裏付けてゆきます。専門家ならではの着実な議論は見習いたいところ。参考文献の記述が丁寧なのも良いですね。興味をもった箇所を手がかりに色々と調べ知識を深めることが出来ます。

 私たちの持つ『武士道』概念がいかにして形成されたかを解き明かす過程も興味深いです。江戸から明治大正昭和と、武士道が理想化され、やがて国民国家形成に利用されるプロセスが良く解ります。

 もっとも、本書の真価は『武士道』を幻影とし常識を否定する点にはありません。
 後半部、荒々しく現実的な処世術だった武士道が、太平の世の倫理観へと変遷する過程を通して著者は問いかけます。
 戦場の倫理は果たして平時の倫理たり得るのか。
 平時の精神性は、戦場のそれにどこまで由来するのか。
 著者が言うように、この問いかけは戦争一般に関する議論にまで通じます。安易な答えを出せる問いではありませんが、それだからこそ思索を促してくれると言えましょう。

 良質な議論と新しい視座を与えるのみならず、思索までも誘ってくれる好著です。
 興味のある方は是非ご一読を。

投稿者: 日時: 2007年09月08日 22:49 Web拍手

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コメント: 読書録「戦場の精神史 武士道という幻影」

良さそうな本ですね。
私は「忠義の念」も大好物ですが、やっぱり下克上の物語も大好きなので、こういう本はもっと出て欲しいです。
読んでみたいですね。

投稿者 辰田 | 2007年09月09日 15:14

非常に良い論考なので是非ご一読を。
ちょっと大きめの書店なら扱っていると思います。

投稿者 ヤス | 2007年10月08日 22:36

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