Search
« 070625雑記 | メイン | ショートカット»
![]() | 先生とわたし 四方田 犬彦 新潮社 2007-06 売り上げランキング : 2235 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
読了してしばらく経つ今でも心のどこかがざわめいています。なるほど、これは評判になるわけだ。
比較文学者四方田犬彦が、恩師由良君美への思いを綴った長篇評論です。もっとも個人的には、評論というより史伝文学であるとの印象を受けております。詳細は新潮社のページを見て貰うとして雑感を。
由良君美が徐々に精神の平衡を失うのを著者が知り行くくだりでは幾度となく本を閉じざるを得ませんでした。胸に響く、というよりも、ではなく、肺腑にずんと重いものが沈んだ感覚。
由良がメフィストフェレス、老ファウスト、そしてウェルギリウスに擬せられているのはまことに象徴的であり、『ファウスト』や『神曲』をはじめて読んだ時に近しい感情を覚えます。本書に関しては、感動という言葉を安易に使いたくはありません。碩学への複雑で錯綜した、それでいて敬意と愛情に溢れた本書を手安い言葉で総括してしまうことは、知の営みと伝授に対する背信行為に他ならないでしょう。
鶴見俊輔が「3、4日かけて読み終えたとき、率直にいって、涙がこぼれた。あれと比べられるのは、日本文学のなかでは鴎外の『渋江抽斎』ぐらいだ。隣りに並べても甲乙つけられない」と述べているのも納得です。もっとも、鴎外一流の沈着極まりない筆と異なり、文章の端々に隠しようのない感情の波が噴き出てはいるのですが。
わたしは自問する。はたして自分は現在に至るまで、由良君美のように真剣に弟子にむかって語りかけたことがあっただろうか。弟子に強い嫉妬と競争心を抱くまでに、自分の全存在を賭けた講義を続け、ために自分が傷つき過ちを犯すことを恐れないという決意を抱いていただろうか(p218)。
帯にも記されたこの言葉のみならず、本書の端々は持続的な棘となって心に突き刺さり、やがて深い感動を呼ぶことでしょう。師弟関係や知の営みに心を動かされる方は是非とも読むべきです。
装丁も瀟洒で、間違いなく2007年ベストクラスの一冊。読んで良かった。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.gyosekian.net/mt-tb.cgi/529