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良書です。新書のイスラーム本では、『イスラームとは何か―その宗教・社会・文化』と本書がベストじゃないかな。
一般に、中東各国における過激な運動は、「イスラーム原理主義」という言葉で一くくりにされがちです。著者はこの単純な理解を強く批判し、「イスラーム主義」と「イスラーム復興」という概念を提示します。前者は、近代化を取り入れながらもあくまでもイスラームに基づく共同体を構築しようとする試みのこと。対して後者は、イスラームの伝統的な文化の復興を示します。イスラーム主義は政治的活動、イスラーム復興は文化的活動といえましょう。
本書は五章構成になっており、一章から三章では、十八世紀から二十世紀前半におけるイスラーム共同体内部の改革運動を概観し、それらが二十世紀後半からのイスラーム主義運動へと受け継がれていることが示されます。
四章ではイスラーム復興について述べ、五章ではそれまで個別に論じてきた運動に対して総合的な分析をくわえています。
章の構成と論述の進め方は丁寧であり解りやすい。新書という制約あるサイズで、これほど整った論を書ける方はなかなかいません。索引も充実しており、著者の学問的誠実が窺い知れます。
これらの章を通じて著者が提起するのは、近代化=西洋化という「常識」への疑義です。欧米的西洋化の他にも多様な「近代」が存在し、さらにイスラーム内部においても独自の「イスラーム的近代」が様々に在るのではないかということです。
この指摘は実に深く、重いものがあります。一般に私たちは、自分が属しない文化への想像力を失いがちです。友人たちとのグループのようなレベルですら、他グループとの見解の相違に悩まされることはありましょう。地域や国家の単位ならばなおさらです。
大切なのは実証的な理解であるとの強調は、考えてみれば当然のことだけに重いものがあります。
イスラームの歴史を学ぶ上でも有用。スンナ派を中心に手堅くまとまっており、特にサウディアラビアについての記述に優れます。教科書的にも利用出来るのではないでしょうか。
なお、五章後半から終章にかけて、イスラームと近代の関わりを今後いかにして考えてゆくか論じられています。興味深い指摘が多々あるのですが、ページの制約もあったのか詰め込みすぎて理解しにくいものとなってしまっています。他の著書を読んでくれということなのかもしれませんが、もう少し分量がほしかったですね。
巻末には参考文献が多数。中でも、『民族とナショナリズム』と併読するのがお勧めです。
最後に印象に残った文章を一つ。
なぜならば、われわれはイスラームという呪文を唱えれば、十三億の同時代人の世界観や行動様式がすべてわかってしまうという幻想にとりつかれているからである。たしかに彼/彼女らは、たとえばキリスト教徒や仏教徒と比較した時には、ムスリムとしての共通性をもつであろう。だからといって、彼/彼女らが常に同じパターンで世界を認識し、同一の行動をとっている、と思い込むのは間違いである。(pp.188-189)
イスラームに限った話ではありません。
心に留め置きたいところです。
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トラックバック時刻: 2008年07月12日 18:07