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凍てつく雨の中、鈍い銃声が響いた。脳漿を散らし倒れる犠牲者を、男は無表情に見つめていた。彼の名はマーチン・ファロン。悪魔のように蒼白な面貌をした元IRAの天才ガンマン。
意に沿う仕事ではなかった。イングランド北部を牛耳るジャック・ミーアンから仕事を請け負ったのも、逃亡用のパスポートと切符のためだけだった。だが、教会の神父であるダコスタに犯行を目撃されていたことから状況は一変する。神父と姪を始末しろというミーアンの要求を、ファロンはあくまで撥ねつけたのだ。業を煮やしたミーアン一味は、ファロンに死の銃口を向けてきた……
『鷲は舞い降りた』で有名な冒険小説家、ジャック・ヒギンズの隠れた名作。ヒギンズ自身が最も気に入っていた作品というだけのことはあり、プロット、人物造型、雰囲気、その全てが素晴らしいです。
基本プロットはまさにあらすじの通りで、強大な組織を率いる帝王と孤高の天才ガンマンの対決といったところ。背景となる街の描写は一部を除いて弱く、ファロン、ミーアン、ダコスタ神父、そしてファロンを追う鬼刑事ミラーといった四人のやり取りに頁の多くが割かれています。
ファロンの人物造型が本当に魅力的。神学や音楽に通じ、ユーモアを解しながらも冷笑的な態度を崩さない全てに絶望したペシミスト。それでいながら、未だ熱いものを捨てきってはいないという、実に正しい冒険小説の主人公。
自らを死者と称し、ダコスタ神父が「あの男は、絶えず死神を探し求めているのだよ、アンナ。死神は腕をひろげて歓迎してくれるだろうとね」と評する孤高の気色には一読の価値があります。
元空挺隊員であり、神に深く帰依しながらも必要とあらば力の行使を辞さない熱血漢ダコスタ神父とファロンのやり取りは、緊迫感を孕みながらも、不器用な男たちの友情という趣があります。融通の利かない性状故に場末の崩壊寸前の教会に飛ばされながらも、強靱な意志、優れた知性、深い慈愛を失わない神父はもう一人の主人公と言えましょう。
ダコスタ神父の姪、盲目の美女アンナとファロンのロマンスも盛り込まれていますが、扱いはわりと軽め。ファロン、ダコスタ、ミーアン、ミラー。これら四人の強力な個性を持った男たちの物語という印象ばかりが残ります。
プロットは単純ながらも強力、人物は魅力的、深い余韻を残す終局と、文句なしの冒険アクション。美しく乾いた文章も素晴らしい。大変お勧めです。
●WEB拍手レス
熱の入った長文をいただいたので少しお待ちを。
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