読書録:骨髄に徹して――「黒髪に恨みは深く」

黒髪に恨みは深く―髪の毛ホラー傑作選黒髪に恨みは深く―髪の毛ホラー傑作選
東 雅夫

角川書店 2006-07
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 古来、髪の毛には魔力が宿ると信じられてきました。特に、フレイザー言うところの感染呪術に多く用いられてきています。牛の刻参りの際、呪いの藁人形に対象の髪の毛を詰めこむのが典型例ですね。
 また、いわゆる巫女さんが黒髪を長く伸ばすのもそのためです。呪術的観点からすれば、髪は長ければ長いほど、黒ければ黒い程良いもの。短髪の巫女さんが、儀式に際には付け毛をするのもこのためでありましょう。
 髪は鴉の濡羽色、という表現があるように、艶のある黒の長髪はそれだけで良いものです。

 さて。そんな黒髪にまつわる怪奇小説を集めたアンソロジーが本書「黒髪に恨みは深く」です。
 お岩様から貞子まで、文豪モーパッサンの小品「幽霊」なども交え、近現代の黒髪ホラーが一同に会したこの書、東雅夫が手がけたことだけのことはあり、外れ無しの珠玉の一冊となっています。

 冒頭の『エクステ怪談』はちょっと蛇足の感がありますが、その直後に、少年の一人称でもって黒髪纏わりつくアニマ的妖女を描く伊東人誉の名品『髪』を配するのが素晴らしい。『髪』で少年が恐怖をもって語る妖女の描写は実におどろおどろしく、編者が解説で指摘するように、怪魔メドゥーサの面影すらあります。
 他にも都市伝説の先駆ともいえそうな泉鏡花の『黒髪』、すさまじいばかりの描写と語り手のどこかとぼけた味わいがたまらない皆川博子『文月の使者』など、どの短編から読み始めても満足できることでしょう。また、巻末に配された論考『貞子はなぜ怖いのか』は、怪談やホラー小説の変遷に興味のある方は必読かと。

 読んでいるうちに髪の毛の文化的変遷に興味が湧き、『貞子はなぜ怖いのか』でも紹介されている『髪の歴史』を注文してしまいましたよ。今日届いたのですが、中々素敵な写真が満載なのでこちらも後日紹介します。

 表紙を飾るのが上村松園の「焔」というのも秀逸。手元に置いておきたい一冊です。

投稿者: 日時: 2006年07月14日 18:51 Web拍手

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