読書録「カネが邪魔でしょうがない」

4106035537カネが邪魔でしょうがない 明治大正・成金列伝
紀田 順一郎

新潮社 2005-07-14
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 いやもう、圧巻でした。流石は近代日本黎明期の成金たち、色々な意味でスケールが違いすぎる。

 本書の主役たちは以下の通り


 ・鹿島清兵衛
 ・鈴木久五郎
 ・大倉喜八郎
 ・岩谷松平
 ・雨宮敬次郎
 ・その他、明治大正を彩った無数の成金たち


 彰義隊と互角に渡り合う程の胆力を持ち、白刃をかいくぐり、ついには近代日本産業の立役者となった大倉喜八郎、絵に描いたような「成金」であるタバコ王岩谷松平など、その生涯はひどく魅力的です。

 中でもとりわけ異彩を放つのが、豪商に婿入りするも夫婦仲が上手くいかず商売人にも徹せなかった鹿島清兵衛でしょう。

 清兵衛が婿入りしたのは、江戸の下り酒問屋、鹿島屋。幕府御用達であり、江戸でも屈指の商家です。本来ならば栄達の道が約束されていた清兵衛ですが、諸処の問題が重なり、商売に対し熱意を喪失。腐っていたところ、番頭の薦めにより、美術品や工芸品に熱中することになったようです。
 元々蔵に眠っている骨董品や工芸品で審美眼が鍛えられていた上、清兵衛には天性の器用さをあったようです。おまけに桁外れの財力があったのだから鬼に金棒でしょう。

 そして清兵衛は、当時最新のテクノロジーであった写真にはまりこみます。これがまあ、並大抵の入れ込みではない。写真館を建立するわ技術者を欧羅巴に留学させるわ、逆に技術者を招くわという徹底ぶり。日本近代の写真は、清兵衛によって発展したと言っても過言ではありません。

 当時評判の芸妓、ぽん太を得てからは凄まじい遊興を重ねます。
 明治時代に京都まで列車を仕立てて、お座敷列車へと改装し、さらには当時最高峰の料理人や音楽家を招いて移動大宴会を催したというのだからまあ、生半可ではない。こんな金の使い方、当時の「成金」しかしませんし、出来ませんよ。現代のIT長者ではやれと言ってもやらないでしょうし、世間もそれを許容しますまい。

 ただ、本書によると、清兵衛は遊興の真っ最中でも、どこか遠くにいるような佇まいで冷め切っていたようです。傍観者をもって自認していた鴎外が「同類」と感じているほど。実際に、当時の一般的な成金と違って、自分から率先して騒いだり金をばらまいたりするなどということは無かったようです。
 今に残る写真を見ても、線が細く神経質そうな面持ちをしてますな。成金、という言葉をイメージするのが難しい面構えです。

 あまりの遊興ぶりに本家から離縁されてからは没落の一途。子供を養子に出さねばならぬほどの貧窮ぶりであり、流転の末に家族は崩壊し、1924年に死去。最後まで共にあったぽん太も翌年没しています。

 凄まじい豪遊→凄い勢いで没落して世間から忘れられる、というパターンを辿った成金は山ほどいますが、今になって彼らの生涯を見直すと、そこには、そこはかとない滑稽味があります。
 おそらく、成金を見て羨望と共に滑稽さを感じる心理は当時の人々にもあったのでしょう。だからこそ、彼らは嘲笑されながらも、劇画化され愛されたのです。

 ですが、清兵衛にはその滑稽さが無い。心の隙間を埋めるための手段として豪遊をしながら、最後の最後まで傍観者でしかなかった清兵衛。高いインテリジェンスの持ち主であった彼の生涯は、成金という言葉のイメージとは程遠い寂寥感に包まれています。
 そこが寂しくもあり、また同時に興味をひくところでもありましょう。

 清兵衛の話ばかりになってしまいましたが、当代きっての碩学、紀田順一郎による博覧強記の記述も健在。
 近代の成金たちの、まるで泡沫の如き生き様に浸るもよし、国家と彼ら成金との関係から、近代国家に成立について思索するもよし。
 読みでのある良書です。選書サイズなので分量、お値段も手頃。
 お勧めですよ。

 ……しかし大倉喜八郎のように、幕末から明治を生き抜いた人は凄い面構えしてるな。本当に自分たちと同じ人種なのかと思うほどだ。時代の違いかなあ。


●WEB拍手レス

>しかしUMAて嘘くさいですけど何かときめくものがありますね。個人的にメガロトンが生きていたら最高です
>巨大生物は堪りません……!

 全面的に同感です。UMA、嘘くさいんですが、やっぱり浪漫がありますね。
 メガロドンいいなあ。海の底にいないかなあ。

投稿者: 日時: 2005年08月30日 19:38 Web拍手

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