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「ぼく」こと広田義夫は、城下町だった市の高校二年生。親友の高橋、恋人の良子と共に送っていた平穏な高校生活が、ある日を境に変容してゆく。
うららかな春の土曜の放課後、「ぼく」と高橋とが行った奇妙な見世物「カメラ・オブスキュラ」。幻惑的な凹型レンズが映し出した水族館には、あるはずのない地下への階段が存在していた。
実際に水族館に赴き、そのような階段が実在しないのを確かめるも、呼応するかのように奇妙な事象が堰をきった様に溢れ出す。
良子の持ち出してきたこっくりさんがもたらした怪異。
深夜のラジオから聞こえてくるという奇妙なメッセージ。
昭和初期の新興宗教の影。
教師・遠藤とその妻英子らの助けもあり、一度は状況も落ちついたかのように思える。だが、それは嵐の前の静けさにすぎなかった。
ぬめるような春の一日を皮切りに、残酷な一年が幕を開ける――
傑作です。
古き良きジュヴナイルを思わせる柔らかい筆致で幕を開ける、正しい青春ホラー。日常が徐々に侵食されてゆく描写や、「嵐の前の静けさ」の表現が本当に上手い。
結局最後まで読んでも、誰が「本当に」黒幕だったのか、そもそも黒幕などはいたのか。主人公が見たのは何だったのか。見たものは実在したのか。居なくなってしまった人々は何処に行ったのか――何一つ、明確な答えは与えられません。
そこが素晴らしく効果的。只の書き手ならば只の不条理な展開としてしまうところを、主人公たちの不安感や狂気を読者に感染させる手段としている辺り、凡手ではありません。
文体も変幻自在。ジュヴナイルかと思えば、ラヴクラフトの如き息の長い長文、研究書めいた硬質な筆致、昭和初期の冒険記と、見事に日本語を操っています。「新人賞に応募したような文章」という批判もありましたが、見事に作者の文体の罠にはまった例と思います。
一年を通して物語が展開してゆくのですが、春ならぬめる風、夏なら湿気と、かなりマメにどことなく不安を喚起する描写を織り込んでいるあたりお見事。
なお、著者である稲生平太郎は、本名横山茂雄。幻想文学方面の研究でも良く知られる本職の文学研究者であります。現在奈良女子大学大学院人間文化研究科教授。
稲生氏についてはこちらが詳しいのでご一読を。
しかし、出来れば高校生の頃、遅くとも大学入学当初に読みたかった……
いやまあ、その当時に読んでいたら本当に作品にとりつかれていたかもしれませんが。
●今日のWEBコミック
■ほのぼの幽霊4コマ漫画『2k 庭付き 幽霊憑き:表(裏)』(WEB拍手より。有難う御座います)
うわ、これは物凄い好み。どこかとぼけた味わいがたまらない。
幽子さんが実にいいなあ。お勧め。
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