読書録「ゴーレムの檻」

4334076068ゴーレムの檻
柄刀 一

光文社 2005-03-25
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★★★★

(★が1点、☆が0.5点。5点満点です)


 「アリア系銀河鉄道」に続く、宇佐見博士シリーズ、待望の新作です。
 柄刀一という作家は相当に真面目な人物らしく、現実社会を主な舞台とした推理ものでは堅苦しい部分や野暮天な部分がちょこちょこ顏を出してしまうことが多いのですが、この宇佐見博士シリーズは例外。
 基本設定からして「サンフランシスコ近郊の研究所に勤める博物学者(!)・宇佐美護博士。紅茶と思索を愛する博士は、時空の隙間にひょいと落ち込んでしまう特異体質でもあった。博士は、ノアの箱舟、銀河鉄道、エッシャー絵画の世界、15世紀の大英帝国といった世界で出合う謎の数々を解き明かしてゆく」というのだからもうたまりません。
 この種のファンタジックな作品は必要以上にリリカルになりがちなのですが、落ちついた文体がそれを救い、一種の品の良さを与えています。思うに作者には現実べったりでない、どこか浮世離れして品の良い作品の方が向いているのではないでしょうか。

 收録作品は

 ・“エッシャーの後継者”とされた画家が最後の作品に込めた謎。その謎を解き明かさんとするうちに、博士がエッシャー絵画の論理が支配する世界へと迷い込む「エッシャー世界(ワールド)
 ・一卵性双生児をシュレディンガーの猫に見立てた「シュレディンガーDOOR」
 ・作中作を利用した認識の齟齬「見えない人、宇佐美風」
 ・施錠された扉、幾重にも渡る鉄の帯と分厚い壁に閉ざされた独房から“ゴーレム”と恐れられる怪物が消失する「ゴーレムの檻」
 ・ゴーレムの檻の現代版「太陽殿のイシス」

 の五編。
 銀河鉄道による星空の旅、数億年前の地球と、空間的に大きな広がりを見せていた「アリア系銀河鉄道」とは対照的に、精神の広がりと認識の変容をテーマとしているように思われます。
 実際、「エッシャー世界」では、視点の移動による認識の変容が、犯行のトリックと動機の解明に直接関係してきます。この辺りの手腕は流石。

 收録作品では特に「ゴーレムの檻」が素晴らしい。

 15世紀の大英帝国に飛ばされた宇佐美博士が出会ったのは、「ゴーレム」と呼ばれる囚人だった。悪魔的な頭脳の持ち主と恐れられていたゴーレムは厳重に封印された独房に閉じ込められていた。
 独房の封印は

「壁も床も、二重どころか三重に石が積み重ねられたものですよ。鉄の棒も密に埋め込まれていて、それもまた一つの檻です。窓の格子も頑丈極まりなく、たとえ窓から脱出しても、後は地面真っ逆さまに落ちるしかない。抜け出すことなどできない石の箱ですよ、あの独房は」

 という徹底ぶり。物理的な脱出はどうあがいても不可能としか思えない。
 しかしゴーレムは宇佐美博士に向かい、「私のいる、この檻としての世界は、その外側に取って代わるのだ。君達こそ、囚われのものとなる」と告げる。日に日に心を不安に陷れてゆくゴーレムの言葉。
 そして新月の夜。ゴーレムは「箱の中に落ちよ」とのメッセージを残し、独房から消えうせた……

 とまあ、ガチガチの密室ものです。もうこれだけで大興奮。
 箱の内側たる独房と、箱の外側たる世界が逆転するというイメージは実に美しい。密室からの消失トリックもよく練りこまれており、物理的トリックと心理的トリックの組み合わせは見事の一言。非常に優れた一品です。他の收録作はともかく、この作品だけは読んでおきましょう。

 少し外したかな、という作品も散見されますが、作風が個人的に好みのため、+0.5点して4点評価。本格推理好きやファンタジー好きの人には特にお勧めできます。

 なお、帯のコピー「神に見捨てられた牢獄で こんなにも君は美しい」。物凄い恰好良い表現なんですが、本篇にはあまりそぐわない気が……

投稿者: 日時: 2005年05月16日 20:38 Web拍手

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