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キューバ危機。
この言葉をご存じの方は多いでしょう。1962年10月、ソ連政府がキューバに配置した核ミサイルをめぐり、米ソという二大超大国が核戦争の一歩手前にまで至った歴史的事件ですね。
本書『核時計零時1分前』は、ケネディ大統領(当時)の元に核ミサイル配備の報がもたらされた10月16日から、「暗黒の土曜日」こと10月27日まで、キューバ危機を分刻みで再現したドキュメンタリーです。
世界終末時計をもじったタイトルが表す通り、キューバ危機の勃発からミサイルの撤去までを分刻みで描いています。米ソ首脳陣からキューバ駐留ソ連軍の末端兵士にまで入れ替わる視点、徹底したリサーチ、緊密な構成と、優れたドキュメンタリーの要素をすべて兼ね備えていますね。一度手にとれば眠れないことは請け合い。傑作といっていいでしょう。
本書の魅力の一つは、通説・思い込みを覆してくれることにあります。
私たちは歴史を一面的にとらえがちです。キューバ危機にしてもそう。ケネディは徹頭徹尾平和的な解決を求め、一方のフルシチョフは虎視眈々と世界の覇権を狙っていた。そのようなイメージを抱いている人は少なくないでしょう。
しかし、本書が示すのは真逆の事実です。米ソ二大政府は右往左往としか言えない混乱と迷走に陥っていましたし、偶発的な事故やわずかな誤算が恐ろしい勢いで事態を混迷させていきました。
例を挙げれば、10月27日(土)のこと。「暗黒の土曜日」たるこの日ですが、実のところ、ケネディとフルシチョフの間には既に妥協が成立していました。キューバからのミサイル撤去、及び見返りとしてのジュピターミサイル撤去は約束されていたのです。アメリカにせよソ連にせよ、問題はただ、互いが突き出した核の矛をどうおさめるかにありました。
しかし、そうは問屋がおろしません。北極圏へと調査飛行に向かっていたU2偵察機が位置測定をあやまり、ソ連領内に入り込むという事故が発生します。核攻撃に備えた最終偵察と思われても仕方ないといえましょう。同時期に、キューバを偵察飛行していたU2偵察機がソ連軍の地対空ミサイルにより撃墜されてしまいます。まさに、最悪のタイミングです。
これらの事件を皮切りに米ソの緊張は加速度的に高まります。第三次世界大戦は、核による世界の滅亡は目の前でした。両国の首脳はそんなことを望んでいなかったというのに。
かようにケネディもフルシチョフも状況に振り回され続けました。攻撃一辺倒の強攻策、相手の出方を待つための静観、妥協点を探る構えと、二人はその姿勢をめまぐるしく変えています。ぶれなかったのは当時のキューバ大統領フィデル・カストロくらいでしょう。革命と名誉にこだわり続けた彼は戦闘的な姿勢を崩しませんでしたが、それが祟りキューバ危機以降は米ソ両国から敬遠されることとなってしまいます。その後のキューバがどうなったかは歴史の示すとおり。
本書が教えてくれるのは、歴史というものが慮外の出来事と偶然にいかに左右されるかということです。キューバ危機のような大事件ともなれば陰謀説がそれこそ山と出てくるものですが、「世界征服をたくらむ悪の組織」が自由にコントロール出来るほど歴史は甘くないことがよくわかります。エマーソンが言うように「事象は馬に乗って人を運んでいく」のであり、状況を劇的に動かすのは偉大な指導者よりもむしろ、プライドと恐怖に振り回される小人なのでしょう。常に心に留めおきたいところです。
ドキュメンタリーとしても、考察のための書としても一級品。
おすすめです。
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ご無沙汰しております。
本日は宣伝させていただきます。エンターブレイン様よりフリーメイソンの包括的ガイドブック、『フリーメイソン 歴史の喪われたシンボル』が発売されました。
編著は近作『うちのメイドは不定形』も評判の森瀬繚さん。
フリーメイソンといえば『ロスト・シンボル』のヒットもあって知名度が急上昇しておりますね。「古代の智慧を受け継ぐ世界に冠たる秘密結社」「坂本龍馬もメイソンだった」「薔薇十字団やイルミナティと共に世界を裏から支配せんとする恐るべき組織」などなど、メイソンをめぐっては無数の噂が囁かれております。
本書は、そんなフリーメイソンまつわる虚像と伝説をちぎっては投げちぎっては投げ、実像を濃密に紹介する一冊。『ロスト・シンボル』ファンのみならず、フリーメイソンにはじめて触れる方にもおすすめ出来る内容となっております。
僭越ながら私もそれなりにお手伝いさせていただきました。皆様よろしければお買い求めくださいませ。
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読書。
漢字にしてわずか二文字。ですが、本を読むという行為そのものはそう単純でもありません。古典的名著『本を読む本 』や先日取り上げた『クオリティ・リーディング』でも触れられているように、本の種類によって読書のやり方は大きく異なります。『純粋理性批判』と『剣客商売』を同じテンポで読み進む人はいないでしょうし、『フィネガンズ・ウェイク』を読み飛ばすのはほぼ不可能でしょう。一口に読書といっても、色々な読み方があるわけです。
そんな中、思想系翻訳書の読み方を解説した一冊が本書『難解な本を読む技術』です。思想系翻訳書というのは読んで字の如し、デリダ、フーコー、ドゥルーズなどの、いわゆる「思想家」たちの著書ですね。その大半は難解をもって知られており、いきなり手にとっても途中で投げ出してしまうのがオチ。
そこで本書の出番となります。タイトルに「技術」を冠しているだけのことはあり、とにかく具体的。思想書や解説書の選び方、買い方、理解の仕方、理解出来ない箇所にどう対処するかなど、微に入り細に入り説いてくれます。
特に第三章「本読みの方法(1) 一度目:通読」と第四章「本読みの方法(2) 二度目:詳細読み」は必読でしょう。通読によって本全体の「地図」を作り、「詳細読み」で細部の細部まで理解する。このための方法論を丁寧に指導してくれます。読書ノートの作り方も一から解説されていますね。ここでいう「読書ノート」は、一冊の本の内容を把握するために作る、いわば専用ノートです。徹底的に読み込みたいときに有用なツールですね。
ラカン、ドゥルーズ、スピノザなどを巻末で読み解いてくれるのも嬉しい。著者自らによるお手本といえましょう。これがあるとないでは理解度がまったく違ってきます。
実践してみるとわかるのですが、本書の方法論は強力です。難解な、論理の入り組んだ本の筋道を追い、自家薬籠中のものとするにはベストでなくともベターなのは間違いない。発売当時、読書系のブログで評判となったのも頷けます。
もっとも、本書も万能ではありません。既に述べたように、ターゲットとなっているのはあくまでも思想系の翻訳書です。読書ノート作成を根底としていることからもわかるように、入り組んだ論理を手間暇かけてじっくりと追っていくのが基本です。ゆえに、近年大流行の「読書術」とは正反対の方向性にあるといえましょう。本書を読んで実践したからといって、学校の成績や仕事の効率は上がらないでしょうし、「成功」に近づけもしません。
ただ、考えるための手引きとなるのは確かです。スポーツのためには一定のトレーニングが必要。ご近所をランニング出来ない人間がフルマラソンを完走出来るはずがありません。考えるにしても同じこと。「自分の頭で考えるのが大事」とはいいますが、下手の考えなんとやらともいいます。優れた思想家たちの著書に触れ、その論理を丁寧に追うことによって自らの思考もまた鍛えられるのです。本書はそのための優れた案内といえましょう。
なお、現代思想そのものの解説書としては同著者による『世界をよくする現代思想入門』がお勧めです。現代思想の「目的」を明快に説いた一節は目から鱗でしたよ。
タイトルの通り、iPadを買ってしまった庵主です。モデルはwi-fiの32GB。
いえね、見送るつもりだったのですよ。手元にはSony Readerもあることですし、当面はいいかなあ、と。
しかし物欲というのはおそろしい。「これってTRPG用ツールとしてはすごい便利なのでは?」と思った瞬間、予約しておりました。
当初はapple storeで予約していたのですが、発送が遅いということもありヨドバシの実店舗で改めて予約。二日後には入荷の連絡があり、無事受け渡しとなりました。家電量販店ではヨドバシが入荷の量・速度共に頭一つ抜けているようですね。apple storeでの発送も始まりましたし、そろそろ入手しやすくなる頃ではないでしょうか。店頭在庫販売状況スレも参考になりますが、2chのスレッドという性質上ガセも多いのでご注意ください。
肝心の使ってみた感想ですが、とにかく快適です。
レスポンスの快適さは全米が泣くレベル。iPhoneの反応の良さもかなりのものですが、それ以上。アイコンをタップした瞬間にアプリが起動する快感は一度味わうとやみつきになります。
電子ブックリーダーとしても優秀。
液晶なので文字のぎっしり詰まった本を読むには向きませんが(目が疲れすぎます)、雑誌やコミックを読むならSony Readerよりこちらですね。
下は先日自炊した「ワンダーJAPAN」をi文庫HDで表示しています。

写真だと光沢がいまいちですが、実際にはかなり綺麗ですよ。アンチグレアフィルムを貼ってこれなので、グレアフィルム派の方なら大変美麗な画像映像が楽しめると思われます。次はTRPGのルールブックを自炊して取り込んでみよう。
現在はLinkStation LS-CH1.0TLを導入しNAS環境を構築中です。これでいつでもどこでも動画が見られる、はず。
色々と話題になっているiPadではありますが、触っているだけで楽しいデバイスというのはそうそうあるものではありません。デジタルガジェットがお好きな方なら買って損はないかと。
![]() | ビジネスマンのためのクオリティ・リーディング (創元社ビジネス) 創元社 2009-10-16 売り上げランキング : 176379 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
良書です。タイトルだけみると「いかにも」なビジネス書を思わせますが、なかなかどうして、読みごたえのある読書本でした。
基本的な姿勢が「少数ながらも厳選した本を読む」、つまり精読である点からして好感がもてる。速読・多読によるアウトプットばかりを強調する昨今流行りの読書術とは対極にあります。
むろんのこと、本書の目的もアウトプット――いわゆる知的生産にあるのは間違いありません。これは「ビジネスマンのための」というタイトルである以上当然でしょう。しかし、読書そのものを目的とする場合でも本書は示唆に富みます。
特に、読書後のフォローについて述べた第5章は読みどころ。その眼目は読書から得た知見を頭に定着させるためのノート術にあります。帯にまとめられているので引用しますと
STEP1:心を動かされた文章や言葉に線や印をつける
STEP2:書き写す文章を10箇所ほど選ぶ
STEP3:魅力的な見出しをつけてノートに書き写す
STEP4:ノートを毎日読み返す
と、なりますね。いわば「引用ノート」の作成です。
実際、この方法論は有効です。
私自身も読書ノートを付けていますが、記憶への定着度が段違いですね。ノートを読み返して新しい気付きを得ることもしばしば。読んでそれだけだった時とは雲泥の差です。私のやり方は以下の通り。
1:気になった記述があったページの端を折る。稀覯書や高価な本の場合は付箋を貼る。
2:重要だと感じた記述を鉛筆でマークする。
3:読了後、マークした文章を再確認し、必要だと感じたものをpomeraで書き写す。ファイル名は「日付+書名」とする(例:100529クオリティ・リーディング)。
4:「3」のファイルを印刷し、テーマごとに分けてノートに張り付けておく。
5:ノートを何度でも読み返す
見ての通り、本書で提案されているノート術と基本的に同じですね。
違いはpomeraを使っていることくらいでしょうか。本来は手で書き写すべきなのでしょうが、私はあえてpomeraに頼っています。これはなぜかといえば、その方が楽だからです。
ノート作成が有効なのは間違いありません。しかし、実際にやってみるとわかりますが、書き写しというのはかなりの労力を要します。読むスピード>>>書き写すスピード、のため、どうしても苛立ってしまうのですね。
この点、pomeraは優秀です。レスポンスは軽快ですし、キーボードを打つ方が手書きより速いのは自明の理でしょう。pomeraは反射型の液晶を採用しているので目も疲れません。何より、テキスト入力に徳化したデバイスだというのが大きい。一度起動すれば、あとは文章を書くしかない。こんな状況だと、意外に引用が進むのですよ。人間というのは面倒臭いことを徹頭徹尾嫌う生き物ですから、心理的なバリアを低くするのがなによりも重要です。
手書きするにせよ、入力するにせよ、引用ノートの有用性は一度実践すると手放せないレベルです。この週末にでも試してみることをお勧めします。
ノート術以外にも、「何に興味があるか知るために本棚を眺める」「本の中で紹介されている本に注意を払う」「時間に応じて読む本の種類を変える」「本の種類に応じて読み方を変える」など、具体的なアドバイスが満載の本書、読書好きな方なら読んで損はありません。お手元にどうぞ。
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これはいい。かなりの良書です。
タイトルの通り、二十世紀中国学の展開を追った概説書ですね。主たる対象は二十世紀前半。殷王朝の存在が明らかになったこと、および敦煌文献の発見をきっかけに、世界各地で中国学が大躍進した時代です。
本書は「中国の中国学」「日本の中国学」「欧米の中国学」の三章を柱としています。それぞれについて二十世紀に到るまでの中国研究史(日本では「漢学」と呼ばれていました)、重要な研究者(巻末に人物小伝あり)、政治的背景が研究に与えた影響(例えば中国では辛亥革命により伝統的な四書五経教育が大打撃を受けています)などなど、広範な目配りがされており読みやすい。大学の授業を元にしているためか、バランスのとれた叙述がなされています。200ページに満たないやや薄手の一冊のため、手軽に読めるのも嬉しいところ。
薄手とはいえ中身は濃いです。索引も完備されていますし、記述も無味乾燥一辺倒ではない。中国学というのは細部が魅力的なのですが、本書も例外ではありません。
例えば敦煌文献をフランスに持ち帰った研究者、ポール・ペリオ。敦煌文献を短期間に精選し逸品ばかりを選び出した人物ですが、彼が文献学者を志していたことはあまり知られていません。文献収集への熱意と、類まれな語学力を併せ持った彼だったからこそ、敦煌文献の真価を見抜くことが出来たともいえます。そのあたりについてきっちり書かれているのも読みどころ。なお、ペリオについては、黌門客さんによるポール・ペリオの無断(?)引用もご参照ください。
個人的には、1314年、イタリアのキリスト教宣教師オドリコ・ダ・ボルディノーネが三年間中国に留まったエピソードが面白かったですね。彼の著書『オドリコの東方奇聞』(『オドリコの紀行』とも)には、纏足や鵜飼などが記録されているとのこと。読んでみたい。
かように、中国学を知るうえで有用、読み物としても面白いという一冊です。お値段も手頃ですし、是非どうぞ。